© 2020 CG Cinéma ‒ Neue Bioskop Film ‒ Scope Pictures ‒ Plattform Produktion ‒ Arte France Cinéma
『ベルイマン島にて』誰にも奪い去ることができない彼女の物語
立ちすくむ敗者に向けて
「二人の人生に、この恋の場所はない。1度目は早すぎ。2度目は遅すぎた」
映画が中盤に差しかかった頃、クリスが創作する脚本の登場人物たちが動き出す。ミア・ワシコウスカ演じる映画作家エイミーと、アンデルシュ・ダニエルセン・リーの演じるヨセフによる再会の物語だ。初恋の相手との再会。クリスはヒロインの来たるべき結末を決めかねている。この劇中劇はその意味で、白紙の結末に何が書かれるかを待っているエイミーの物語といえる。
友人の結婚式のためにフォーレ島で久々に再会した二人の「空白の時間」を説明する演出が見事だ。事情を知らない他人から、二人は質問責めにされる。元恋人たちは残酷な形で、お互いの空白の時間に起きたことを知る。エイミーにとってヨセフは、いまも忘れられない人であり続けている。『グッバイ・ファーストラブ』のヒロインのように、エイミーはヨセフとの再会に胸が高鳴るのを抑えることができない。しかし、今の彼に一体何を期待できるだろうか?そのことさえも十分に承知しているエイミーの、一つ一つの所作が胸を打つ。
まるでティーンエイジャーのようにヨセフに胸を焦がすエイミー。しかし表面上は子供を育てる大人の女性として振る舞わなければならないという葛藤。企画を立ち上げた当初から、ミア・ハンセン=ラブは、ワシコウスカにエイミーを演じてもらうことを決めていたという。ガス・ヴァン・サントの傑作『永遠の僕たち』(11)からちょうど10年を経た現在のワシコウスカにしか演じられない身振りが、本作に刻まれている。クリス、そしてミア・ハンセン=ラブによって夢見られたヒロインを、ワシコウスカは適確に体現している。
『ベルイマン島にて』© 2020 CG Cinéma ‒ Neue Bioskop Film ‒ Scope Pictures ‒ Plattform Produktion ‒ Arte France Cinéma
「勝者がすべてを奪い去り、敗者は立ちすくむ」(ABBA「ザ・ウィナー」)
エイミーがABBAの「ザ・ウィナー」に合わせてダンスするシーンがある。ミア・ハンセン=ラブの映画において音楽が流れるとき、キャラクターはその興奮の瞬間の一部となる。しかしエイミーの情熱的なダンスをヨセフが見ることはない。彼女は敗者として立ちすくむことしかできない。
一方、白紙の結末を完成させるためにクリスの物語は進んでいく。何かに急き立てられるようにベルイマンの家に向かうクリス。彼女は映画という幻影を追いかけながら、幻影に追いかけられている。
ビビの視界の中にいるクリスの描く物語は、目の前で勝者がすべてを奪い去っていくのをただ立ちすくんで見守ることしかできなかった敗者に向けて捧げられている。ミア・ハンセン=ラブは本作において、男性作家によって軽視されてきたヒロインの肖像=覚悟を、これ以上ないほど凛々しい輪郭で救い上げている。彼女の物語は誰にも奪い去ることができないのだ。
* Little White Lies [Bergman Island – first-look review by Sophie Monks Kaufman]
映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
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『ベルイマン島にて』
4月22日(金) シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
© 2020 CG Cinéma ‒ Neue Bioskop Film ‒ Scope Pictures ‒ Plattform Produktion ‒ Arte France Cinéma