2023.04.13
『ゴールデン・エイティーズ』あらすじ
美容院やカフェが並ぶパリのブティック街を舞台に、従業員や客たちが恋模様を歌い上げるミュージカル。パステルカラーの衣装で歌い踊るロマンティックな浮遊感と、愛に対するシャンタル・アケルマンの容赦ない視線が交差する。
Index
ダンス映画・喜劇映画
アイドルのようにキラキラした女性たちがポップな色彩の画面で歌い踊る『ゴールデン・エイティーズ』(86)は、シャンタル・アケルマンのフィルモグラフィーにとって一見異色の作品のように見える。しかし実のところシャンタル・アケルマンとミュージカル映画の相性は抜群だ。
歴史的な傑作『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)における部屋から部屋へと動き回るジャンヌ(デルフィーヌ・セイリグ)の家事が、正確に振付けされた「舞踏」として機能していたように、シャンタル・アケルマンは音楽的な映画作家なのだ。そして美術や色彩の設計が際立っていた『ジャンヌ・ディエルマン』と同じく、本作にはビジュアルアーティストとしてのシャンタル・アケルマンの一面が鮮やかに発揮されている。精巧に施された振付けと固定カメラには、シャンタル・アケルマンのフィルモグラフィー全体を「ダンス映画」として読み取るヒントが隠されている。
『ゴールデン・エイティーズ』© Jean Ber - Fonda&on Chantal Akerman
シャンタル・アケルマンは「喜劇」の身振りを探求する映画作家でもある。『ジャンヌ・ディエルマン』を自作自演で喜劇化した作品といえる『L'Homme a la valise』(83)や、二人の女性が「おなかすいた、寒い」という合言葉を連呼する『おなかすいた、寒い』(84)のようなチャーミングな喜劇を撮っている。チャップリンを愛するシャンタル・アケルマンにとって、ミュージカルとコメディは彼女のコアに関わるテーマなのだろう。