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『ゴールデン・エイティーズ』綻びから生まれる歌、もう一人のジャンヌへのプレゼント

© Jean Ber - Fonda&on Chantal Akerman

『ゴールデン・エイティーズ』綻びから生まれる歌、もう一人のジャンヌへのプレゼント

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綻びから生まれる歌



「幸せ幸せって、結局何なのよ?幸せなんて広告のでっちあげよ」


 ブリュッセルにあるショッピングモール「Galerie Toison d'Or」を模したセット。開店準備~閉店に到るまで、女性たちはブティックや美容室の従業員として、ルーティン作業の中にいる。カラフルな衣装を纏った女性たちは、ショッピングウィンドウに並ぶマネキンのように華奢な体形をしている。広告の世界にいるような彼女たち。


 女性たちの働くショッピングモールは地下にある。従業員たちの間では同僚のマドやリリの恋の話題で持ちきりだが、ある者は見知らぬ恋人に海外に連れ去られることを夢見ていたり、ある者は自分自身を恋から遠ざけながら生きている。地下に幽閉された女性たち。しかし彼女たちが囚われまいと警戒しているのは、広告によって作り出された「幸せ」のイメージなのだろう。彼女たちの間には小さな共同体を形作っているような一面がある。



『ゴールデン・エイティーズ』© Jean Ber - Fonda&on Chantal Akerman


 愛すべき女性たちの上司をデルフィーヌ・セイリグが演じている。家事のルーティンに生きていた『ジャンヌ・ディエルマン』の主人公と同じ名前を持つジャンヌ。既に結婚して息子もいる彼女には、忘れられない恋人がいる。若い愛と年を重ねた愛。『ゴールデン・エイティーズ』は、情熱に年齢は関係あるのか、愛は老いてしまうのかを問いかける映画でもある。『ジャンヌ・ディエルマン』がそうだったように、シャンタル・アケルマンはルーティンの中に綻びが生まれていく推移をスケッチする。本作では、過ぎ去った愛、過ぎ去ろうとしている愛が綻びを生む。ほつれた糸の結び目から「歌」が溢れ出している。




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