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『ゴールデン・エイティーズ』綻びから生まれる歌、もう一人のジャンヌへのプレゼント

© Jean Ber - Fonda&on Chantal Akerman

『ゴールデン・エイティーズ』綻びから生まれる歌、もう一人のジャンヌへのプレゼント

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大人の女なら知っている



「大人の男なら何でも知っている/怖れも金も愛情も死の匂いも」


 ジャンヌの息子ロベルトは、奔放なリリに恋をしている。リリは不倫相手に向かって、大人の男性が何でも知っていることを歌う。しかし本作の男性たちは、無邪気なくらい愛に狂った子供のように見える。死の匂いを知っているのは、むしろジャンヌであり、若いリリ、マド、パスカルのような女性たちだ。リリの歌は本人の意思を超え、男性たちへの皮肉として機能している。


 ジャンヌとイーライが映画館でデートするシーンで、イーライの顔は影で塗りつぶされてしまう。スクリーンから放たれる光は、スポットライトのようにジャンヌの顔を照らす。映画館の暗闇の中でジャンヌの感覚は研ぎ澄まされていく。シャンタル・アケルマンは、夜の純粋さを愛する映画作家だ。闇が人の感覚を敏感にさせていく。明るさを失った瞬間に初めて見えてくるものがクローズアップされる。このときのジャンヌの顔には、追憶への疲労と新しい愛への恐怖が滲んでいる。



『ゴールデン・エイティーズ』© Jean Ber - Fonda&on Chantal Akerman


 ジャンヌは、まだ若いマドやリリを守ることを決める。『ゴールデン・エイティーズ』でもっとも感動的なのは、このジャンヌの決断だ。ジャンヌは愛が人生を壊してしまうことも、愛が若さを失ってしまうことも知っている。ウエディングドレスを着た美しいマド。捨てられた花嫁マドの手を離さないジャンヌの姿が感動的だ。ジャンヌの行動が正しいかどうかは分からない。しかし先頭に立って若い愛を守ろうとするジャンヌの姿には、次の世代、次の女性へ懸ける思いが強く滲んでいる。それは広告が作り出してきた「(女性の)幸せ」のイメージに対する、身を挺した抵抗でもあるのだ。



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。




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作品情報を見る




『ゴールデン・エイティーズ』

「シャンタル・アケルマン映画祭2023」

4/7(金)〜4/27(木)ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催 

ほか全国順次ロードショー

主催:マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム 宣伝:VALERIA

© Jean Ber - Fonda&on Chantal Akerman

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