©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv - PROXIMUS - RTBF(Télévision belge)
『トリとロキタ』生きるために隠された感情、そして名誉
『トリとロキタ』あらすじ
地中海を渡りヨーロッパへやってきた人々が大勢ベルギーに暮らしている。トリとロキタも同様にベルギーのリエージュへやってきた。トリはまだ子供だがしっかり者。十代後半のロキタは祖国にいる家族のため、ドラッグの運び屋をして金を稼いでいる。偽りの姉弟としてこの街で生きるふたりは、どんなときも一緒だ。年上のロキタは社会からトリを守り、トリはときに不安定になるロキタを支える。偽造ビザを手に入れ、正規の仕事に就くために、ロキタはさらに危険な闇組織の仕事を始める……。他に頼るもののないふたりの温かく強固な絆と、それを断ち切らんとする冷たい世界。彼らを追い詰めるのは麻薬や闇組織なのか、それとも……。
Index
モデルとなる大人の不在
第二のデビュー作といえる『イゴールの約束』(96)以降、ダルデンヌ兄弟の手掛ける作品の題材や手法は強固に変わっていない。オードレイ・ディヴァンによる鮮烈な長編デビュー作『あのこと』(21)に強い影響を与えた『ロゼッタ』(99)のように、ヒロインとカメラの間にほとんど距離がないようなエクストリームな手法の実験は例外的にあった。しかしダルデンヌ兄弟の作品は、フィルモグラフィーを更新するごとに、むしろ何も変える必要がないほど研ぎ澄まされている。
何百人もの子供たちが行方不明になり、誰も彼らの居場所を知ることもない。『トリとロキタ』(22)を撮ったのは、ヨーロッパの移民の子供たちに関する記事に、激しい動揺を覚えたことがきっかけだったという。動揺とは怒りのことでもある。本作のフィルムの肌理には、ダルデンヌ兄弟の怒りが強く滲んでいる。
トリとロキタの間には血のつながりはない。ロキタがビザを獲得するための偽の姉弟関係。しかしお互いにサヴァイブするための移民同士の連帯には、血のつながり以上の絆があるように見える。不法移民の斡旋が描かれた『イゴールの約束』について、かつてダルデンヌ兄弟は次のように語っている。
「父親は人を見殺しにし、息子のイゴールを陰謀に巻き込み共犯者とする。息子を同じギャングの一員であるかのように扱う。しかし、彼は息子にルールを示さない。大人になること、男になることを教えていない。彼は息子にペテン師になること、そして単に親しい友人、仲間になることを教えている」*1
『トリとロキタ』©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv - PROXIMUS - RTBF(Télévision belge)
『イゴールの約束』において少年イゴールは、父親ではなく移民の女性に信頼を寄せていく。イゴールの周りにいる大人がそうだったように、『トリとロキタ』の二人にもモデルとなるべき大人がいない。大人はトリとロキタに犯罪のやり方を教えるが、それは流れ作業的な手順を教えているだけにすぎない。幼い二人はサヴァイブしていく方法を自分たちで発明していく必要に追い込まれている。トリとロキタは生き残るために麻薬の運び屋として犯罪に加担しているが、二人の間にはお互いを生き方のモデルにしているような感情がある。ロキタはトリの母親代わりであり、トリは母親を守るように彼女に接している。
ダルデンヌ兄弟のすべての映画には、いつの間にかサスペンス・スリラーのような趣きに変わっていく瞬間がある。登場人物がサヴァイブすることと犯罪がシームレスにつながっているからだ。