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『マリー・アントワネット』アイ・ウォント・キャンディ!パーティーの終わり

(c)Photofest / Getty Images

『マリー・アントワネット』アイ・ウォント・キャンディ!パーティーの終わり

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『マリー・アントワネット』あらすじ

オーストリア大公妃マリア・テレジアの娘、14歳のアントワーヌは、フランス王太子のもとへと嫁ぐことになり、フランスへと渡った。フランスの王太子妃マリー・アントワネットとして、ヴェルサイユ宮殿での華やかな結婚生活に胸をふくらませるマリーだったが、実際に生活してみると、朝から晩まで大勢のとりまきに監視され、悪意に満ちた陰口に傷つくなど、地獄のような日々が待っていた。さらに、夫のルイはマリーに興味を示さず、世継ぎを産まなければならないプレッシャーがマリーに重くのしかかる。マリーはそんな孤独や不安を紛らわすため、浪費に楽しみを見出すようになる。そんな中、飢餓に苦しむ民衆がついに革命を起こす。民衆の怒りの矛先は、贅沢三昧を繰り返すマリーにも向いていた…。


Index


不特定多数の視線



 「映画は記憶であり、それは色褪せたスナップショットで再現される」(ソフィア・コッポラ)*1


 「皆の視線が向けられるでしょう」。マリア・テレジア(マリアンヌ・フェイスフル)は、フランス王妃として送り出される娘アントワーヌ(キルスティン・ダンスト)にそう告げる。置き去りにされた少女時代。何も知らない少女に向けられる暴力的な視線。マリア・テレジアによる祝福の言葉は、やがて不穏なニュアンスを帯びていく。


 ソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』(06)は、容赦のない視線を一身に浴びる少女を描く。ルイ16世の妃としてマリー・アントワネットを名乗ることになった14歳の少女の無防備さ、無邪気さ。オーストリアとフランスの国境で行われる「お引き渡しの儀式」のシーンには、ソフィア・コッポラがこの作品を撮る強い動機がよく表れている。


『マリー・アントワネット』予告


 カタカタと静かに響く馬の足音。馬車の窓から見える夕日。女友達とのトランプ遊び。これから会うルイ16世が描かれた小さな肖像画を女友達に見せる微笑ましい様子(スマホに保存された写真を見せてキャピキャピしているかのようだ)。ソフィア・コッポラは、少女がオーストリアからフランスに馬車に乗って移動するシーンにかなりの時間を割いている。色褪せたスナップショットのように撮られた移動のシーンには、ホーム・ムービーのような親密さがある。


 そして親密さを残酷に引き裂くような「お引き渡しの儀式」のシーンに、ソフィア・コッポラによる「無慈悲な視線」という主題が浮かび上がる。この儀式のシーンで、少女はオーストリアの衣装を文字通り剥奪され、愛犬のモップスからも引き離されてしまう。裸で立つ少女の後ろ姿をやや遠くから捉えたショットには、これから少女に注がれる不特定多数からの視線の予感に満ちている。





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