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『マリー・アントワネット』アイ・ウォント・キャンディ!パーティーの終わり

(c)Photofest / Getty Images

『マリー・アントワネット』アイ・ウォント・キャンディ!パーティーの終わり

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パーティーは終わった



 「”政治性を省いてもいいですか?"と軽く聞かれたので、”マリー・アントワネットはそれを望んでいましたよ”と正直に答えました」(アントニア・フレイザー)*2


 特別に許可の下りたヴェルイサイユ宮殿での撮影は、週に一度月曜日のみ。キルスティン・ダンストのヘアメイクにかかる時間は、一日2時間半。根気のいる撮影だが、『マリー・アントワネット』の撮影現場はエキストラがマカロンをつまみ食いするほど開放的で、パーティーのようだったという。撮影最終日には、ジャーヴィス・コッカーがDJを務め、夜明けまでパーティーが開かれている。パーティーは終わった。このエピソードは、なんとも本作にふさわしい。


 マリー・アントワネットが隠れ家プチ・トリアノンで仲間と過ごすシーンが印象深い。マリー・アントワネットは、トリアノンで失われた少女時代を生き直している。オーストリアとフランスの国境で、彼女が二人の女友達とトライアングルを作り、何かの誓いのように互いのおでこを重ね合った美しいシーンのことを思い出す。本作のマリー・アントワネットが、どこへ行こうと女性同士の親密な関係を築けていることは興味深い。



『マリー・アントワネット』(c)Photofest / Getty Images


 ルイ14世によって建てられたヴェルイサイユ宮殿は、18世紀には既に莫大な維持費が問題になっていたという。過去の遺産によってマリー・アントワネットとルイ16世は苦しめられる。クレイジーなパーティーは終わった。本作でマリー・アントワネットの処刑が描かれていないことを批判する向きもあるが、政治性を省くことによって、逆に政治性が可視化されていることにも注目すべきだろう。パーティーは何によって終わったのか。ヴェルイサイユ宮殿前に集まった暴徒に向けてマリー・アントワネットは静かに、舞踏のような一礼する。ここから恐怖映画のような陰影を帯びていくヴェルイサイユ宮殿の演出は、どのショットを切り取っても映画作家としての技量が冴えわたっている。


 ソフィア・コッポラはマリー・アントワネットに自身の青春時代を重ね、青春を生き直す。本作には人生に一度しかないパーティーの終わりが描かれている。自分の可能性の限界を知ってしまったマリー・アントワネット。ヴェルサイユ宮殿を後にするとき、彼女は何にさよならを告げたのか。そのことを思うと、たまらなく胸が苦しくなるのだ。



*1 Suzanne Ferris「The Cinema of Sofia Coppola: Fashion, Culture, Celebrity」

*2 Vanity Fair [Sofia's Choice]

*3 Vogue [‘It Was Like Hosting the Ultimate Party’: An Oral History of Sofia Coppola’s Marie Antoinette]

*4 Hannah Strong「Sofia Coppola : Forever Young」



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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