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『マリー・アントワネット』アイ・ウォント・キャンディ!パーティーの終わり

(c)Photofest / Getty Images

『マリー・アントワネット』アイ・ウォント・キャンディ!パーティーの終わり

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アイ・ウォント・キャンディ!



 『マリー・アントワネット』における草原の昼食のイメージは、バウ・ワウ・ワウのアルバムジャケットにオマージュを捧げている。エドゥアール・マネによる有名な絵画にインスピレーションを得た写真だが、ソフィア・コッポラはこのジャケットデザインから更にイメージを広げていく。マリー・アントワネットと恋に落ちるフェルセン伯爵には、バウ・ワウ・ワウの前身、アダム&ジ・アンツのフロントマンであるアダム・アンツが着た衣装のイメージが重ねられている。そしてバウ・ワウ・ワウのボーカル、アナベラ・ルーウィンは14歳のときマルコム・マクラーレンによって抜擢された少女だった。このことはマリー・アントワネットが14歳でフランス王太子妃となったことと符合している。


 本作の音楽はファッションと同様に、ヒロインの感覚、感情を表現している。脚本執筆の際には「ヴェルサイユ・ミックス」と名付けられた二枚のミックスCDが作られたという。本作のメイキング映像には、劇中に使用されていないジョイ・ディヴィジョンの楽曲が撮影現場で流れている。80年代のポストパンクやザ・ストロークス、エイフェックス・ツイン等の現代の楽曲に交じって、ヴィヴァルディの曲が違和感なく、しかし鮮烈にダンスミュージックとして響くサントラ盤は傑作だ。ザ・キュアーのロバート・スミスは、楽曲の使用料を下げるため、直接レーベルと掛け合ってくれたのだという。


 「衣服は見せるだけでなく、隠すこともできる」(スザンヌ・フェリス)*1



『マリー・アントワネット』(c)Photofest / Getty Images


 本作のハイライトの一つともいえる仮面舞踏会のシーンで、イントロがオーケストラアレンジされたスージー・アンド・ザ・バンシーズの「香港庭園」、そしてヒロインのテーマ曲ともいえるバウ・ワウ・ワウの「I Want Candy」が流れる。素性を隠すことで欲望を表現する仮面舞踏会において、マリー・アントワネットの衣装はより際立っている。目元をチュールレースで隠した黒の衣装。スザンヌ・フェリスが指摘するように、このシーンの衣装は欲望を仮面の下に隠しながら、マリー・アントワネットの魅力をむしろ明らかにしている。何かを見せるものでありながら、何かを隠すものであるというファッションの両義性が捉えられた見事なシーンといえる。ソフィア・コッポラは、ファッションに魅了される至上の喜びと同時に、外側からのイメージで見られてしまうことへの危険性を警告する。「皆の視線が向けられるでしょう」というマリア・テレジアによる予言は、娘への警告でもあったのだ。


 ヴェルイサイユに到着したその日から、宮殿はマリー・アントワネットの噂話で持ちきりだ。あることないこと言われるような噂話は宮殿の外にも広がり、「(パンがなければ)ケーキを食べればいいじゃない」という有名な言葉につながっていく。彼女の外側からのイメージによって勝手に引き起こされた偽りの言葉。かつてマリー・アントワネットのものとされていたこの言葉は、現在における検証と同様、本作できっぱりと否定されている。





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