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『ゴールデン・エイティーズ』綻びから生まれる歌、もう一人のジャンヌへのプレゼント

© Jean Ber - Fonda&on Chantal Akerman

『ゴールデン・エイティーズ』綻びから生まれる歌、もう一人のジャンヌへのプレゼント

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もう一人のジャンヌ



 アラン・レネの『去年マリエンバートで』(61)以降、ヌーヴェルヴァーグのミューズとなったデルフィーヌ・セイリグ。70年代以降、彼女は「女性の苦労が分かるような映画を作っていきたい」というスローガンを掲げ、シャンタル・アケルマンやマルグリット・デュラスと連帯。後年、自身もフェミニズム映画の作家としても活躍している。


 『ジャンヌ・ディエルマン』のメイキング映像には、脚本に演技の創造性を発揮する余地がないことで、シャンタル・アケルマンやスタッフと衝突するデルフィーヌ・セイリグの姿が収められている。シャンタル・アケルマンは『ゴールデン・エイティーズ』で「もう一人のジャンヌ」に歌のステージを用意している。まるで映画作家からデルフィーヌ・セイリグ=ジャンヌに贈られた親密なプレゼントのように。


 ジャンヌがかつての恋人イーライに名前を呼ばれるシーン。不意の再会に驚いて思わず後ずさりしてしまうデルフィーヌ・セイリグの演技が素晴らしい。ここには感情の綻びによって生まれた美しさがある。しかし30年ぶりの再会に正気を失っているのは、むしろイーライの方だ。ジャンヌは再会の喜びに震えながらも、愛の若さが既に失われたことを知っている。あのときの気持ちを生き直すことが難しいことを知っている。冷静を装うジャンヌに比べ、イーライは自身の愛の若さに疑いがないように見える。本作に描かれる愛は、通り過ぎていく足元を映したオープニングショットのように決して交わることがない。留まることもない。愛は年をとり、靴音を響かせながら去っていく。その音もいつか消えてしまう。




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