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『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

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粒子の継承



 『午前4時にパリの夜は明ける』の夜の風景は、クレール・ドゥニの『ジャック・リヴェット、夜警』(90)や、ミカエル・アース自身の『MONTPARNASSE』(09)に広がる都市の風景と似ている(『ジャック・リヴェット、夜警』のショットもほんの一瞬挿入されている)。タルラとマチアスが都市の夜景を前に交わす会話が、たまらなく好きだ。タルラは『満月の夜』の感想を話し始める。


 「あとで好きになる映画もある。二度目とか」


 映画館を出たあと、好きになる映画もある。年月が経って初めて好きになる映画もある。タルラの台詞には、映画を見てそのイメージが絶えず彼女の頭の中をめぐっていたことを証明するような時間の推移がある。数年後、タルラはもう一度『満月の夜』を見に行こうとする。頭の中でぐるぐるとしている感情を確かめるために。パスカル・オジェに再び出会うために。タルラは映画から受けた感情を生き直そうとする。



『午前4時にパリの夜は明ける』© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA


 エリック・ロメールの映画に限らないことだが、学生の頃に見た映画を改めて年を重ねてから見ると、当時は気づけなかった大きな広がりを感じることがある。知らない間に蓄積された人生の些細な記憶が、映画体験そのものを変えることに気づかされる。いつの間にか作品のエモーションに追いつくような感覚。それは自分が変わったというよりも、広がったという感覚に近い。もしタルラがもう一度『満月の夜』を見るならば、以前よりもくっきりとしたエモーションの輪郭を作品から受け取るに違いない。


 タルラ、そしてジュディットとマチアスは、エリザベート=シャルロット・ゲンズブールの優美で手探りな生き方から、いつの間にか感情を学んでいる。本作は「夜の乗客」というネットワークによって生まれた偶然の感情教育としての映画を描いている。そこには都市の夜を彷徨う粒子の継承がある。本作の若い俳優たちが年を重ねてからこの映画を見直したとき、そして観客が年を重ねてからこの映画を改めて見直したとき、エモーションの粒子がいまも胸の中で踊り続けていることを知るはずだ。『午前4時にパリの夜は明ける』は夜の色彩、エモーションの粒子、その優美な魂を次の世代へと継承する傑作だ。この映画を好きにならずにはいられない。


*1 「The Passengers of the Night Press Notes」(MK2)

*2 「Les Passengers De La Nuit révèle Mikhaël Hers」(Transfuge)



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作品情報を見る



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



『午前4時にパリの夜は明ける』

絶賛公開中

配給:ビターズ・エンド   

© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

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