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『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

『午前4時にパリの夜は明ける』80年代パリの夜を彷徨う粒子たち

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夜の乗客



 夫と別れ、独り身で子供たちを養っていくことになったエリザベート。労働の経験に乏しいエリザベートは、事務の仕事で失敗してしまう。しかし運命の導きであるかのように天職に就くことになる。部屋の灯りを消して一人で聞いていた深夜ラジオ「夜の乗客」のアシスタントだ。初めてエリザベートとヴァンダが対面する面接のシーンが素晴らしい。エリザベートの離婚話を途中で遮るヴァンダには、プライベートな事情に必要以上に踏み込まない繊細な配慮がある。パンツルックのヴァンダには、男装の麗人のような雰囲気がある。ハンサムウーマンであり、夜の妖精のようでもある。彼女は仕事を終えると颯爽と夜の闇に消えていく。不眠症のパリの人々の側にいる”守護天使”ヴァンダ=エマニュエル・ベアール。


 「『午前4時にパリの夜は明ける』では、迷子になりながら道を学んでいることを完全にオープンにすることができました。ミカエルは新しいことを学ぶときに生じる迷いのスペースを与えてくれたのです」(シャルロット・ゲンズブール)*1



『午前4時にパリの夜は明ける』© 2021 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA


 リスナーからの電話を取り次ぐアシスタント業務を学んでいくエリザベート。迷子になりながら手探りではあるが、彼女は好きなことを仕事にしている。シャルロット・ゲンズブールは演技について、自分を見る必要をなくすための”逃避行”と語ったことがある。カメラの前では大胆になれるシャルロット・ゲンズブール本人の姿がエリザベートのイメージと重なっていく。反抗的な態度を見せた息子に思わず後ずさりしてしまうエリザベート。新しい生活を始めた娘の前で寂しさのあまり涙ぐんでしまうエリザベート。人生の迷子であることをまったく隠そうとしない率直な姿は、エリザベート=シャルロット・ゲンズブールの特別な魅力だ。子供たちが自分の手元から離れていくシーンが胸を打つ。エリザベートは自分の魅力に気づいていないようだが、二人の子供たちは母親の魅力を正確に知っている。


 息子マチアス(キト・レイヨン=リシュテル)の運転するバイクの後ろに乗るエリザベートの姿には、恋人同士のような、または人生の相棒のような特別な親子関係が見て取れる。そして本作ではマチアスのバイクの後ろに乗るもう一人のヒロインがいる。ホームレスとして生活している少女タルラだ。深夜のパリを文字通り彷徨うタルラも「夜の乗客」のリスナーであり、この言葉を最も体現している少女だ。レア・ミシウスの『アヴァ』(17)で圧倒的な演技を見せたあの少女が、本作でも忘れられない演技を披露している。





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