映画作りはチームプレイ
Q:『ロストケア』『水は海に向かって流れる』そして『大名倒産』と立て続けに監督作が公開されています。ジャンルや内容も違いますが、それぞれの作品を監督するに至った経緯を教えてください。
前田:『ロストケア』は10年前に原作に出会いました。作者である葉真中顕さんの、未来に対する警鐘と国に対する怒り、それを体現する登場人物二人の対決を映画にしたいと思い、自分で企画を持ち込みました。ただ、当時の僕は全くヒット作がなく、映画会社に持ち込んでもなかなか企画が通らなかった。最終的には日活が拾ってくれて製作することができました。
『水は海に向かって流れる』はプロデューサーにお声がけいただき、監督することになった作品です。
この『大名倒産』は、松竹さんが「時代劇を作りましょう!」とずっと声をかけてくれていたんです。松竹の時代劇は『超高速!参勤交代』(14)からヒット作が続いている流れもありました。そんなときに「大名倒産」を本屋さんで見つけたんです。以前やった『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)と『そして、バトンは渡された』と同じ出版社の文藝春秋だったこともあり、原作の交渉もスムーズにいきました。テーマとしても現代をうまく象徴していたし、これはいけるんじゃないかと。製作はわりと早く進みましたね。
『大名倒産』© 2023映画『大名倒産』製作委員会
Q:「大名倒産」の原作を押さえた後は、プロデューサーと一緒に二人三脚で進めていかれたのでしょうか。
前田:そうですね。脚本家とプロデューサーと一緒に作り始めました。映画作りはチームプレイなんです。皆で一緒に話し合うからアイデアが生まれる。そこが映画作りの醍醐味ですね。一人で考えていたら多分出てきません。一緒になって、あーでもないこーでもないとやるのがいちばん面白い。そこは小四郎と一緒ですよね。
Q:すでにいろんなジャンルを手掛けられていますが、今後やってみたいジャンルなどはありますか。
前田:ジャンルにこだわりはないんです。『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』は介助や障害がテーマですが、コメディとして作らせてもらいました。本作も、現代に通じるテーマを時代劇として作っています。そこに通底しているのは、厳しい状況の中でも七転八倒しつつ前を向いて仲間と一緒に頑張るところ。それはジャンルを超えたものですよね。明るい人だからといって年中笑っているわけではない。落ち込んでいるときもあるし、真剣に物事を考えるときもある。人にそういう面があるように、映画にも色んな面がある。だから面白いんです。
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監督:前田哲
撮影所で大道具のバイトから美術助手を経て、助監督となり、伊丹十三、滝田洋二郎、大森一樹、崔洋一、阪本順治、松岡錠司、周防正行らの作品に携わる。98年、相米慎二監督のもとで、オムニバス映画『ポッキー坂恋物語 かわいいひと』で劇場映画デビュー。21年には『老後の資金がありません!』『そして、バトンは渡された』で報知映画賞監督賞を受賞。主な監督作品に『パコダテ人』(02)、『棒たおし!』(03)、『陽気なギャングが地球を回す』(06)、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』(07)、『ブタがいた教室』(08)、『猿ロック THE MOVIE』(10)、『極道めし』(11)、『王様とボク』(12)、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18)、『ぼくの好きな先生』(19)など。23年は本作に加え『ロストケア』『水は海に向かって流れる』と立て続けに監督作が公開となる。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『大名倒産』
6月23日(金)大公開!
配給:松竹
© 2023映画『大名倒産』製作委員会