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『アイスクリームフィーバー』千原徹也監督 やり方は何でもいい、自分がやるだけ【Director’s Interview Vol.332】

『アイスクリームフィーバー』千原徹也監督 やり方は何でもいい、自分がやるだけ【Director’s Interview Vol.332】

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映画の核となった吉岡里帆と松本まりか



Q:デザインで培ったセンスやスキルが遺憾なく発揮されていますが、「お芝居をつける・演出する」という経験はこれまでなかったかと思います。その辺はどのように対応されたのでしょうか。


千原:まさにそこが一番不安なところでした。ミュージックビデオを撮ったことはありますが、セリフはないですしね。それで蜷川実花さんや犬童一心さんの映画の現場を見学させてもらい、一日中張り付いてました。犬童監督の現場では、吉永小百合さんに話しかけたりもしてました(笑)。蜷川さんも犬童さんも皆が言うには、「別に何も別に学ぶ必要はなくて、千原くんらしくいることが一番大事だよ」と。蜷川さんはもともとスチールカメラマンで、映画になると急にスタッフが多くなったと、「現場の雰囲気に飲まれるから、自分らしくいることが映画にとって一番大事。それだけは忘れないようにして」と言ってくれました。そうやって色々話を伺っていくと、他の人がどんな演出をやっているかなんて、もはや気にしない方がいいんだと思うようになりました。


そこで考えた自分の演出の仕方は、俳優が100%自分を出してもらえる環境を作るということでした。登場人物の表には出てこない細かい設定まで決めて、その設定を監督と俳優が共有し、人物像を作ってから臨むような感覚があったのですが、別にそうでもないのかなと。例えば、登場人物の趣味嗜好や幼少期の経験などは、演じる本人の好きでよくて、その人をそのまま引き出してくれればいい。なるべくその人の素が出る状態を現場で作るようにして、セリフも「AかBかどっちが良いですか」と聞かれたら、「どっちがやりやすい?」と聞き返して本人のやりやすさに委ねました。



『アイスクリームフィーバー』©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会


Q:吉岡里帆さんと松本まりかさんが芝居の核となって牽引されていた印象がありました。お洒落なビジュアルを纏った映像を、二人の説得力ある芝居が映画として成立させているように思えました。


千原:この映画を撮るまで3年くらい掛かっているのですが、その間、いわゆる映像クリエイターが作った映画をいっぱい観ました。映像の面白さや奇を衒ったものにこだわり、映画らしく感じないものがありました。そんなときに『すばらしき世界』(20)をたまたま観たのですが、演出のシンプルさに感動して泣いてしまいました。本当に人だけを追っていて、奇を衒った映像を作ろうとは一切思ってないんでしょうね。自分のやりたいことのバランスはちゃんと考えないといけないなと痛感しました。


奇を衒うことが悪いわけではないけれど、どうしてもMVの延長みたいなものになっていく。全部が奇を衒った映像だと疲れるし、そこに心が向かなくなってしまう。人間のリズムみたいなものも映画の中には必要なんだなと。その辺の良し悪しは気を使いましたね。



『アイスクリームフィーバー』©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会


また、吉岡里帆さんと松本まりかさんには、核になって欲しい、映画を作っているという感覚を持ち込んで欲しいと思い、お願いしました。二人は撮影初日に、この映画の空気を察知してくれました。どういうレベルの演技をすればこの映画にそぐうのか、それを初日で感じてくれたんです。吉岡さんがクランクインの日に共演したのは、モトーラ世理奈、後藤淳平(ジャルジャル)、もも(チャランポランタン)、詩羽(水曜日のカンパネラ)っていう俳優メインじゃない人ばっかりだったわけです。「あ、こういうことね」というのを、たぶん1〜2個セリフを言った時点で感じてくれたみたいで、吉岡さんに急にスイッチが入ったようでした。「この映画のトーンってこうだよね。私が引っ張っていかないと」みたいな感じがあって、とても頼もしいなと。


松本まりかさんも、初日で「違う」と分かったみたいでした。通常の映画はリアリティが必要で、性格に合わせた服装などを選ぶと思うんです。でもこの映画は性格とかは関係なく、皆かわいい髪型でお洒落な服を着てるんです。それはリアリティというよりも、90年代感や空気感を優先し、千原徹也が監督するということで、そういう服装や髪型になっているわけです。ところがリアルな髪型だったまりかさんは、初日の撮影に「私、なんかハマってないよね?」と相談がありました。が、次の日に自分であの髪型(姫カット)に変えてきた。今回はリアリティ優先ではなく、お洒落にした方がこの映画に入れるんだと。そうすると違和感なくハマった。あの二人はこの映画をしっかり理解した上で、引っ張ってくれた存在でした。




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監督:千原徹也

1975年生まれ。京都府出身。アートディレクターとして、広告(H&Mや、日清カップヌードル×ラフォーレ原宿他)企業ブランディング(ウンナナクール他)、CDジャケット(桑田佳祐 「がらくた」や、吉澤嘉代子他)ドラマ制作、CM制作など、さまざまなジャンルのデザインを手掛ける。またプロデューサー業として「勝手にサザンDAY」主催、東京応援ロゴ「KISS,TOKYO」発起人、富士吉田市の活性化コミュニティ「喫茶檸檬」運営など、活動は多岐に渡る。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成





『アイスクリームフィーバー』

7月14日(金)TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開

配給:パルコ

©2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会

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