(C)mm2 Studios Hong Kong
『星くずの片隅で』ラム・サム監督 人はどうすればまたお互いを信じ合えるのか 【Director’s Interview Vol.334】
コロナ禍の香港、という重要な時間を記録すること
Q:コロナ禍における映画製作では、作り手には2つの選択肢があったと思います。現実の出来事をそのまま映画に反映するのか、あるいはあくまでもコロナがない時代として描くのか。ラム・サム監督は、脚本を変更してでもあえてコロナ禍の時代に物語を置き換えたわけですが、その選択を選んだのはなぜでしょうか?
ラム・サム:実は、僕たちが最初に撮影を開始しようとしたのは、まさに新型コロナウィルスの感染が徐々に拡大し始めた頃でした。当初は少し待てば落ち着くんじゃないかと思っていたんですが、1ヶ月待ち、2ヶ月、3ヶ月と待っても一向におさまる気配はない。むしろ状況は悪化していくばかりだとようやく理解し、それなら今のこの現実を記録したほうがいいんじゃないかと思い始めたんです。それで当初の予定より時代背景などを少し変更し、コロナ禍である現在の時間に物語を設定することになりました。
いま振り返って考えると、あのパンデミックの時期は、僕たちが生きる時代のなかで本当に大きな出来事になりましたよね。あのとき撮影を続ける決断をしたことで、自分たちは人類にとって重大な時間を記録することができたのではないか、あの時期の香港の街並みを撮れたのは貴重な経験だったのだと、最近になってようやく思えるようになってきました。香港映画でもコロナによるパンデミックを題材にした作品はほとんどありませんし、改めてあの時期のことを映画化しようと思っても、逆に難しいでしょうね。今度は街の人たちみんなに改めてマスクをつけてもらわないといけないでしょうし。
『星くずの片隅で』(C)mm2 Studios Hong Kong
Q:映画のなかで多用される、窓を使った演出も興味深かったです。ザクは最初、事務所の窓から道路を見下ろすことで、無邪気に走りまわるキャンディたちを発見します。そしてキャンディたちはずっと窓のある家に住むことに憧れつづけている。こうした窓の演出はどのように考えていったのでしょうか?
ラム・サム:カメラマンのメテオ・チョン(流星)さんと一緒に目指したのは、人々が窓の枠に取り囲まれて身動きがとれないような状態をつくりだすことでした。窓の枠、つまりコロナに囲まれてしまった人々たちが、どのようにその困難を突破し、窓の外の世界に飛び出していけるかを描きたかったんです。
それともうひとつ、家やホテルの窓というのは、香港の特殊な住宅事情を象徴するもので、香港の貧富の差を表すものでもある。だからこの映画では、さまざまな場面で窓を使った演出を取り入れたわけです。香港の住宅環境は本当に複雑な構造をしていて、安いアパートやホテルでは、ほとんどの部屋に窓がついていません。ところが、僕とメテオ・チョンさんがロケ地となるホテルを見に行ったとき、ある部屋で偶然小さな窓を見つけたんです。寝ることしかできないような小さな部屋になぜか窓がついていて、壁に囲まれた隙間からどうにか外を見ることができる。僕たちはその不思議な空間にとても驚き、ぜひこのシチュエーションを演出に生かしたいと思いました。こうして、あのホテルのシーンが出来上がったわけです。