出会う人々のキャスティング
Q:旅の途中で会う人々もグラデーションがあって面白かったです。個人的には吉澤健さんと風吹ジュンさんの夫婦、寡黙な篠原篤さんが印象的でした。 キャスティングはどのように決められたのでしょうか。
熊切:キャスティングはプロデューサーと相談しながら決めていきました。風吹さんは以前『武曲 MUKOKU』(17)に出ていただいてすごく良かったので、今回もお願いしたいと最初から思っていました。また、僕は若松孝二監督のファンでして、若松映画常連の吉澤健さんともいつか仕事をしてみたかった。吉澤さんは、若松監督の『新日本暴行暗黒史 復讐鬼』(69)というすごいタイトル映画の主人公だったんです(笑)。どこか陽子の父親とイメージがダブるような感じにもしたかったので、吉澤さんとオダギリさんは何となく重なるところもあるんじゃないかなと。
篠原篤さんは『恋人たち』(15)が大好きだったからですね。今回の篠原さんの役は、陽子の話をただ黙って聞いているだけなのですが、陽子が話したくなるような人がなかなか思いつかなかった。でも篠原さんになら打ち明けたくなるんじゃないかなと。
『658km、陽子の旅』©2022「658km、陽子の旅」製作委員会
Q:最初に乗せてくれる役が黒沢あすかさんなのも意外でした。
熊切:そうですね。あの役はちょっと異質な感じがいいかなと思っていました。声のトーンや喋るテンションなど、最初は不機嫌なんだけど実はお腹が空いてただけだったという(笑)。ご飯を食べた後はよく喋る人に変わるというのをやりたかった。仕草の一つ一つもちょっとバブルの匂いがしていいなと思いました。
Q:浜野謙太さん演じる“嫌な感じの”フリーライターは、本当にいそうな感じが絶妙でした。誰かモデルにした方はいるのでしょうか。
熊切:ハマケンさんと話して、とあるジャーナリストの方が共通イメージとしてぼんやりありました。誰かは言いませんが(笑)。また、ハマケンさんは優しい方なので、その普段の優しい感じで、でもやってることはエゲツないという風にやって欲しかった。そうしたらハマケンさんから「素の僕をエゲツないやつだと思っているんですか?」と言われてしまった(笑)。そんなつもりは全くないんですけどね。