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『リボルバー・リリー』行定勲監督 現代の情勢が突きつけた、この映画を作る意義【Director’s Interview Vol.340】

『リボルバー・リリー』行定勲監督 現代の情勢が突きつけた、この映画を作る意義【Director’s Interview Vol.340】

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現代の情勢が突きつけた、この映画を作る意義



Q:ロシアとウクライナの戦争が起こっている今、人を殺していくというアクションを描くことに葛藤されたそうですが、その辺の思いは反映された部分はあるのでしょうか。


行定:元々は今の世の中に渦巻いている鬱屈した感じを、女性のダークヒーローが全部ぶっ飛ばすような企画だったんです。夏公開の映画だから暑気払いするようにね。でもそこで改めて思ったのは、「映画とは、封切られた年に観るべきものを作っている」ということ。例えば戦後の話を今突然作ったところで、観客に響くわけがない。それで、この映画においての「今観るべき理由」を探し始めると、舞台となる大正末期と今とで共通するものを感じたんです。


ちょっとキナ臭い感じがここ数年の日本には渦巻いていて、そこに核心的に、ロシアとウクライナの戦争が起こってしまった。人がどんどん理不尽に死んでいくという事実を、思いきり突きつけられたわけです。そんな2023年に、女性のダークヒーローが人をどんどん撃ち抜く映画をやる必要があるのか?いくら虚構であっても、その行為が蛮行になってしまっては、映画自体が愛されないし、自分自身映画と向き合えない。ロシアとウクライナの日々の報道を見ながら、そう考えていました。


敵も味方もお互いの大義の下に戦っているとはいえ、なぜ兵隊たちは最前線で戦わざるを得なかったのか。それを考えたときに、長谷川博己さん演じる元海軍の弁護士・岩見という役が、すごく意味を成してきた。長谷川さんとは相当話し合いをして、セリフから何からどんどん変えていきました。当時の日本が置かれている状況の中、岩見は何を考えていたのか? 映画の中に「矛盾」という言葉が出てきますが、全てが矛盾している中で物事が進み、多くの人が戦いに巻き込まれていってしまう。岩見の飄々としたキャラクターの奥にある戦争に対する強い嫌悪感みたいなものは、そこから生まれていきました。



『リボルバー・リリー』©2023「リボルバー・リリー」フィルムパートナーズ


もう一つキーパーソンになっているのが阿部サダヲさん演じる山本五十六で、これは決定的な象徴ですね。山本五十六の映画をこれまで何人もの監督が撮ってきましたが、山本五十六という実在の人物に触れるって非常に怖いことだと思います。まさか自分が山本五十六を描くことになるとは夢にも思わなかった。新撰組の近藤勇はもはやフィクションのようになっていますが、時代が進み山本五十六もフィクションの領域に入ってきているのかなと、この原作を読んだときにそう感じました。山本が大佐時代にどんな野心を持っていて、どんな風にこの国の戦いを捉えていたのか、もしまだ人として未完成な山本五十六だったとするならば、小曾根百合がそこに対峙するのはとてもロマンがあるなと。では小曾根は山本五十六に対峙したときに何を言うのだろうか。最前線に行った人間の悲しみや苦しみ、市井の人々の目線で言葉を発するのではないか、僕はそう思ったんです。戦場で亡くなっていった世代の人たちが、どれぐらい平和というものと向き合おうとしていたのか、それを山本に対する小曾根の言葉で紡ぎ出すことにより、少しだけ触れられるような気がしました。


この企画がない限りは、自分の映画人生において小曾根のような主人公を作り上げるなんて思いもしなかった。でも今の情勢がそうさせたところはかなり大きいと思います。





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