© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
『オオカミの家』クリストバル・レオン & ホアキン・コシーニャ監督 フレーベル館の童話集に影響を受けたよ【Director’s Interview Vol.342】
大切にした“即興性”
Q:仕事の進め方について「絶対的な計画性のなさがあります」とコメントされていますが、脚本はどの段階まで作られているのでしょうか。撮影現場に委ねる部分も多いのでしょうか。
レオン:「絶対的な計画性の無さ」というのはちょっと言い過ぎたかもしれません(笑)。大きな振り幅を持って即興性を大切にした作り方をしているため、この映画に関しては通常の脚本は作っていません。その代わりに三つの大切なことを決めました。
一つは各シーンでストーリーボードを作ること。そんなに細かいものではなく、各シーンそれぞれ20枚程度作りました。二つ目は、この映画が大きく外れないよう10個の規則を作り、それを必ず全員で守っていこうというもの(※10個の規則 1:これはカメラによる絵画である 2:人形はいない 3:全てのものは「彫刻」として変化し得る 4:フェードアウトはしない 5:この映画はひとつの長回しで撮られる 6:この映画は普通のものであろうと努める 7:色は象徴的に使う 8:カメラはコマとコマの間で決して止まることはない 9:マリアは美しい 10:それはワークショップであって、映画セットではない)。そして三つ目は、マリアが映画の中で話すセリフ(ナレーション)です。この三つを中心に映画を作っていきました。実際にアニメーションの部分が出来上がってくると、用意してセリフは当初想定していたシーンではなく、違うシーンで使った方が良い場合も出てきた。その辺は即興性を持たせて柔軟に対応しました。
Q:ストップモーションアニメは緻密な計算や準備を必要とするものですが、計画性なく進めることはまさに真逆の制作手法かと思います。ストップモーションアニメを計画性なく進めて感じるメリットやデメリットがあれば教えてください。
コシーニャ:全てのアニメーションに言えることですが、どのクリエイターも伝統的な作り方を尊重していると思いますし、もちろん私たちも尊重して制作に取り組んでいます。その中で、偶発的にヒストリーが変わっていくことを作品作りに生かしています。ただ、そういった作り方をしていると時間が非常にかかり経済的な問題が出てくる。そこはデメリットですね。メリットは制作過程が楽しいこと。問題が起こればそれをどういう風に解決していくのか、「こういう手法でやってみよう」と創造する時間が楽しい時間になってくる。それはメリットだと思います。
『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018
Q:制作過程を各美術館で展示したというのは素晴らしいアイデアだと思いました。制作過程を見られるという経験はいかがでしたか?
コシーニャ:美術館やギャラリーで制作過程を見せる行為には、自分たちを芸術家と認識する瞬間がありました。映画制作者というよりも芸術家としての自分たちがどんどん高まっていく感覚を得ることが出来て、とても良かったと思います。一方で、オープンスペースのため物が失くなったり、周囲から見られて集中力を欠き作業が進まないこともありました。また、場所のセッティングや移動などで出て行くお金も多かったです。ただそういった悪い面よりも、良い面の方がたくさんあったと思います。例えば、通りかかった方が即興的に参加してきて、作品をいい方向に転化できたり、いろんなインスピレーションが湧くこともありました。また、作品作りの経済的な援助を申し出てくださる方もいました。