1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『オオカミの家』クリストバル・レオン & ホアキン・コシーニャ監督 フレーベル館の童話集に影響を受けたよ【Director’s Interview Vol.342】
『オオカミの家』クリストバル・レオン & ホアキン・コシーニャ監督 フレーベル館の童話集に影響を受けたよ【Director’s Interview Vol.342】

© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018

『オオカミの家』クリストバル・レオン & ホアキン・コシーニャ監督 フレーベル館の童話集に影響を受けたよ【Director’s Interview Vol.342】

PAGES


ストップモーションアニメといえば、明るく子供が楽しめるものを想像しがちだが、『オオカミの家』はまるで逆。悪夢のような描写が延々と、しかもワンカットで続く驚異のストップモーションアニメとなっている。手掛けたのは、チリ出身のクリストバル・レオンとホアキン・コシーニャの二人組。本作はピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン「コロニア・ディグニダ(*1)」にインスパイアされ作り始めたという。


本作の撮影場所は、チリ国立美術館やサンティアゴ現代美術館のほか、オランダ、ドイツ、メキシコ、アルゼンチンにある10カ所以上の美術館やギャラリー。実寸大の部屋のセットを組み、ミニチュアではない等身大の人形や絵画をミックスして制作、制作過程や制作途中の映像をエキシビションの一環として観客に公開するという手法で映画を完成させた。


レオン&コニーシャの特異な才能の素晴らしさを、『ミッドサマー』で知られるアリ・アスターが絶賛。自身の最新作『Beau is Afraid』内のアニメ・パートを彼らに依頼したという。ほかにも彼らは、トム・ヨークの新バンド The SmilePJ ハーヴェイのミュージックビデオを監督し話題に。そんな才気溢れるクリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャの二人に、本作の制作について話を伺った。


*1:ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューンで、西ドイツを追われたカルト教団指導者のパウル・シェーファーが設立したチリ南部にあるドイツ系移民を中心とした入植地。「コロニア・ディグニダ」の意味は「尊厳のコロニー」。表向きはユートピアのような共同体だが、1961年からシェーファーが逮捕される2005年頃まで、強制労働や身体的暴力、性的虐待、薬物や電気ショックによる洗脳、武器の密輸など数々の陰惨な犯罪が行われた。



『オオカミの家』あらすじ

美しい山々に囲まれたチリ南部のドイツ人集落。“助け合って幸せに”をモットーとするその集落に、動物が大好きなマリアという美しい娘が暮らしていた。ある日、ブタを逃がしてしまったマリアは、きびしい罰に耐えられず集落から脱走してしまう。逃げ込んだ一軒家で出会った2匹の子ブタに「ペドロ」「アナ」と名付け、世話をすることにしたマリア。だが、安心したのも束の間、森の奥から彼女を探すオオカミの声が聞こえはじめる。怯えるマリアに呼応するように、子ブタは恐ろしい姿に形を変え、家は悪夢のような禍々しい世界と化していく……。


Index


マリアとパウル・シェーファー、多岐にわたる視点



Q:本作は「コロニア・ディグニダ」からインスピレーションを得たとのことですが、現実的な問題を創作に入れ込む意図を教えてください。


コシーニャ:私たちにとって芸術的活動と政治・社会問題は、特に分かれていません。政治や社会問題をユーモラスに取り上げることが、自分たちの作品に息を吹き込んでくれる。それらは創作の過程で自然に入ってくるものなんです。


Q:「もし私たちがコロニア・ディグニダの視聴覚プロデューサーだったら?」という視点で作られたとのことですが、その一方で、コロニア・ディグニダに対する抵抗や反乱といった逆の視点も描かれているように感じます。


レオン:パウル・シェーファー(*2)がコロニーのプロモーション映像を作ったらどうなるだろうと、このプロジェクトは始まりました。ただし、この映画の制作には5年掛かっていて、作っていくうちに色々と変化していきました。時にはシェーファーのことすら忘れて、制作に打ち込んでいた瞬間もあります。忘れてしまっていても、シェーファーだったらどうしただろうと途中で立ち戻るときもある。そういう繰り返しで制作を続けてきました。最終的にはコロニーのフィクション映画になりましたが、伝えたいことは一つだけではなく、その裏側にあるものも伝えたい。観る方にとっては非常に複雑で、視点が多岐に渡る映画に仕上がったと思います。



『オオカミの家』© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018


コシーニャ:何か言おうと思っていたのに、口から違うことを発してしまう。そんな瞬間ってありませんか? 頭の中と言っていることが無意識のうちにコントロール出来なくなっている。そういうことって人間にはよくあると思います。そういった多角的なことって起こり得るんです。


レオン:パウル・シェーファー、つまりこの映画ではオオカミが持っている意識、そしてマリアが持っている意識、そのどちらの意識が占領していくのか、どちらのポジションが上でどちらが下なのか、どちらが食ってどちらが食われるのか?そういったせめぎ合いをイメージして描いていきました。


Q:「映画を作る時に、私たちは他人の皮を被ることを好む」とコメントされていますが、『オオカミの家』というタイトル然り、グリム童話「赤ずきん」も意識されていますか。


コシーニャ:そうですね。この映画を作るにあたっては、「赤ずきん」に限らず沢山の童話が頭の中を巡りました。『オオカミの家』というタイトルをつけたとき、「赤ずきん」が念頭にあったかは覚えていませんが、とにかく沢山の童話が頭にあったのは間違いありません。


*2:コロニア・ディグニダの創設者




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『オオカミの家』クリストバル・レオン & ホアキン・コシーニャ監督 フレーベル館の童話集に影響を受けたよ【Director’s Interview Vol.342】