イ・チャンドンが考える「語るべき物語」
Q:監督は常々、インタビューなどで「語るべき物語」を探しているとおっしゃっています。監督の中では、一体どんな条件が揃ったときに「語るべき物語」が生まれるのでしょうか。また『バーニング』から5年経った今、そんな物語は新たに見えてきましたか?
イ:どちらも難しい質問ですね(笑)。いま聞いてくださったことは、私が常に自分自身に問いかけていることだからです。映画を通じて観客に何を語るべきか、私と観客の双方にとって意味のある物語とはどのようなものか。しかし、その答えはそう簡単には出ないものです。「この話は興味深いな、語る意味がありそうだ」と思ったとしても、私はあえて一度立ち止まり、自らに問い直すんです。「これは私にとって、また観客にとって、本当に意味がある物語なのか?」と。
『シークレット・サンシャイン 4Kレストア』 (C)2007 CINEMA SERVICE CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
繰り返しになりますが、その答えを出すのは相当難しいことです。創作をすればするほど、映画を撮れば撮るほど、答えを出すのが難しくなっていて、だからこそ映画を1本撮るのにますます時間がかかっているのだと思います。ただし現在、そんな中でも「この物語には語る意味があるかもしれない」と考え、じっと脚本を書いている作品があります。まだ内容を明かすことはできませんが、そんなふうにずっと、いつも1人で自問自答を続けているのです。
※本稿は2023年8月8日に行われた筆者の単独インタビューと、同日に開催された代官山蔦屋書店でのトークイベント「イ・チャンドン 自作を語る」の内容の一部を再構成したものです。
監督:イ・チャンドン
教鞭を執る傍ら、小説家として活動し幾つかの著書も出版。43歳の時に、『グリーンフィッシュ』で監督デビュー。続く『ペパーミント・キャンディー』では現在から過去へ時間を遡る方法で、1人の男の人生をエモーショナルに描き、韓国のみならず海外でも上映され、世界中でその名を知られるようになる。『オアシス』では、男女の究極の愛を描き、ヴェネチア国際映画祭で監督賞、主演のムン・ソリは新人女優賞に輝いた。2002年、韓国文化観光部の長官に就任する。その後、『シークレット・サンシャイン』を発表。過酷な運命に翻弄される主人公を演じたチョン・ドヨンは、カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞する。その後、『ポエトリー アグネスの詩』がカンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞、『バーニング 劇場版』が同映画祭で国際批評家連盟賞他、多数の賞を受賞。新作を発表するごとに、国内外から注目を浴びている。
取材・文:稲垣貴俊
ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。
「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」
8月25日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国順次公開 ※一部劇場では2K上映
配給:JAIHO
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