“ロケーション”と“ムード”
Q:物語の核は荒削りで勢いを感じつつも、画の部分は洗練されていて調和が取れていたように思いました。
須藤:ゴロッとしたエネルギーを観客に観ていただけるかどうか、それは画のクオリティにかかっているかなと。これまでたくさんの映画を観てきましたが、監督たちの初期作品が好きなんです。何だか良くわからないけどビシビシ伝わってくる、迫力のある映画ってありますよね。自分もそんな映画を目指していたので、今回のような作品が生まれたのかなと。
Q:やりたいことを詰めこんだ感じもしました。特に喫煙所のシーンが印象に残っています。
須藤:実はあのシーンは、もともと路地で撮っていたものを撮り直したんです。『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(95)で、二人でレコードを聞くシーンがあるのですが、その時に部屋の狭さと距離の近さをすごく意識させられる。室内ってそういう“力”があるなと。もともと撮っていた屋外の路地だと、二人の恋愛のムードが逃げちゃう感じがしたんです。それで渋谷の全喫煙所を見てまわり、あの場所で再撮影しました。廃バスのような何の変哲もない喫煙所ですが、強烈なムードが漂っていました。
恋愛の関係性は時間の経過と共に変わるので、それに合わせて撮るアングルも変えています。喫煙所の窓越しから撮ったり中で撮ったりと、ムードで遊べるすごくいいロケーションでした。僕の映画ではロケーションが大切なんだと、改めて気づきましたね。
『ABYSS アビス』(C)映画『ABYSS アビス』製作委員会
『ロスト・イン・トランスレーション』(03)『ノルウェイの森』(10)、『エンター・ザ・ボイド』(09)など、海外の方が撮る日本ってカッコイイと思うのですが、多分自分もそういう画を作りたかったんだと思います。“画がカッコイイこと”は自分の中では大事で抗えないもの。とにかく画をカッコよくしたくて撮り直しちゃったんです。
Q:渋谷の描かれ方が新しく、クールでした。
前作『逆光』では省いていく“美”を捉えていて、美しくないものを捨象していくことにより一個の世界を作っていました。それは今回に比べるとそれほど難しくはなかったんです。尾道を歩いて美しい場所を選び、美しい人に美しい衣装を重ね合わせ、美しいショットで捉えていった。一方で『ABYSS アビス』の渋谷は全く違いました。美があるようで無いような、渋谷というカオスの中から、“一瞬の美”を切り撮る必要があった。渋谷のエネルギーみたいなものを放出させつつも、画のクオリティーを保つ。すごく難しいバランスでしたね。