大阪西成のドヤ街を彦根で再現
Q:大阪西成のドヤ街は彦根の町の一角を飾りこんだセットだと聞いて驚きました。西成の世界を再現するために、こだわったポイントは何でしょうか?
原田:実際に西成をロケハンして、映画のキーとなるイメージを探したんです。でも西成の象徴的な場所である三角公園は平面的で、画的にはあまり面白くない。僕が一番気に入ったのは、動物園前駅からすぐのところにある迷路のようなアーケード。これは絶対に使いたいと思った。あれが『BAD LANDS バッド・ランズ』が表現する大阪のイメージの大動脈なんです。そこを中心にして主人公たちが集まるバーやアパートは、『関ケ原』(17)『燃えよ剣』(21)でもロケをした彦根で撮ろうと。正確なロケセットの地図を作って、スタッフ・キャストが全部理解した上で撮影したので、彦根のロケでも自然と大阪の雰囲気が出せたと思います。
Q:エキストラの方がいかにもドヤ街にいそうなおじさん達でした。
原田:実際に現地からそういう人たちを連れてきました。
Q:現地から連れてきたんですか!?
原田:現地で「西成七福神」と呼ばれている7人の方がいるんですが、その人たちに大阪から彦根の現場まで来てもらって出演してもらいました。あれがやっぱり素晴らしかったですね。
Q:衣装なども、そのままですか。
原田:普段着のままです。そこは全部お任せでした。
『BAD LANDS バッド・ランズ』©2023「BAD LANDS」製作委員会
Q:大阪の新世界でもロケをされていて、現地の空気がよく伝わってきます。
原田:ジャンジャン横丁からネリと(仲間の)教授が出てきて、信号を渡るシーンでも現地の人たちを意図的に配置してるのですが、あまり目立たなかったですね。交通量が激しいし、撮影時間も制限されていたので。
Q:街中のシーンでは通行人を止めて撮影されなかったのでしょうか?
原田:警察が止めさせてくれないんです。映画の冒頭の現金受け渡しシーンは人通りの多いオフィス街でしたが、あそこも一般人をブロックすることはできませんでした。だから撮影現場に通行人がどんどん入ってくる。それでも構わず、色々なアングルで撮りました。
Q:それだと編集で人の動きがつながり辛そうですね。
原田:こちらで仕込んだエキストラが100人以上いて、そのうちのコアになる30人は東京でリハーサルしてから大阪に行ったんです。彼らは僕のワークショップに参加してくれている役者さんですが、その人たちの動きを綿密に決めておきました。それで撮影当日は他のエキストラに、「30人のコアグループの中の誰それの動きを見て動いて」と指示をしました。だからどんなアングルでも同じ動きをしている通行人がいるので、一般の通行人が入ってきても編集でつないでみると、そんなに気にならないんです。
Q:それでモブが多いシーンでカットを割ってもつながるんですね。
原田:苦労しましたけどね(笑)。あのシーンだけで丸一日かかりました。