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『愛にイナズマ』石井裕也監督 家族は目の前にいてくれるだけで価値がある【Director’s Interview Vol.367】

『愛にイナズマ』石井裕也監督 家族は目の前にいてくれるだけで価値がある【Director’s Interview Vol.367】

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映画監督デビューの目前、自分の企画を奪われてしまった若き女子。運命的に出会った恋人?と再起をかけて向かった先は、音信不通でバラバラになった家族だった…。プロットを聞いただけで俄然興味が湧いてくる映画『愛にイナズマ』だが、石井裕也作品でここまで笑いっぱなしなのは珍しいほどコメディ色に溢れている。松岡茉優、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也、そして佐藤浩市と、まるでアベンジャーズな豪華俳優陣が織りなす喧々諤々の人間模様も絶品だ。


舞台はアフターコロナだが、撮影自体はコロナ禍だったにもかかわらず、まるで予言したかのような描写の数々に驚かされる。また、いつの間にかコロナ禍を懐かしんでいる自分に気付き、思わず戦慄してしまう。しかし、これこそまさに本作が突きつけるもの。笑いと涙と感動のエンターテインメントに、問題提起をガッツリ放り込んでくる石井監督の鋭さは恐ろしいほど。そんな石井監督はいかにして本作を作ったのか? 話を伺った。



『愛にイナズマ』あらすじ

悲願の映画監督デビュー目前で、すべての夢を奪われた折村花子(松岡茉優)は、空気は読めないがやたら魅力的な舘正夫(窪田正孝)と、運命的な出会いを果たす。反撃を誓った二人が頼ったのは、10年近く音信不通の花子の家族だった。妻に愛想を尽かされた父(佐藤浩市)、口だけがうまい長男(池松壮亮)、真面目ゆえにストレスを溜め込む次男(若葉竜也)。そんなどうしようもない家族が抱える“ある秘密”が明らかになった時、物語は思いもよらぬ方向へと進んで行く…。


Index


コロナが暴いた事実



Q:本作は驚くほど面白かったのですが、ご自身での手応えはいかがですか?


石井:自己賛美みたいなものではないのですが、多分もう二度と撮れない特別な映画になったなと思います。


Q:これまでの石井作品とは少し違った感覚もありました。


石井:それは、コロナ禍という異質な状況が生んだこと、既存のやり方ではない映画作りをしたこと、この二つが要因です。


Q:既存のやり方とは具体的にどこが違っていたのでしょうか。


石井:最近のオーソドックスなやり方は、映画会社のプロデューサーから「こんな映画をやりませんか?」と企画が来て、「わかりました」と言って脚本を作り始めるのですが、今回はいきなり自分で脚本を書き始めました。しかも2週間くらいで書きあげたんです。このスピード感はあまりないですね。



『愛にイナズマ』©2023「愛にイナズマ」製作委員会


Q:着想のきっかけはどこにあったのでしょうか。


石井:コロナ禍になって1年半ぐらい経ったころ、それまで感じた特大の苦しみや悲しみがあったにもかかわらず、いずれ何事も無かったように終わりが来るんだろうなと、そんな予感めいたものを感じたんです。人の存在がいくら蔑ろにされても、いずれは何事も無くうやむやにされていく。でも振り返ると、そういうことはこれまでも往々にしてあったなと。


また、コロナに端を発したワケのわからない新しいルールがどんどん出てきて、それを批判なく受け入れてしまうヤバさ、受け入れなければ徹底的に社会から糾弾されるヤバさもありました。そういう異常性は、コロナが暴いた事実だと思うんです。そういったものが着想のきっかけになったと思います。




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