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『蟻の王』ジャンニ・アメリオ監督 人間のまっとうな権利を主張する勇気【Director’s Interview Vol.369】

©Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)

『蟻の王』ジャンニ・アメリオ監督 人間のまっとうな権利を主張する勇気【Director’s Interview Vol.369】

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ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いた『いつか来た道』(98)をはじめ、『最初の人間』(11)、『ナポリの隣人』(17)などで知られるイタリアの重鎮、ジャンニ・アメリオ監督の新作『蟻の王』が公開される。


1960年代のイタリアで、成人の教え子と恋に落ちた同性愛者の詩人・劇作家が逮捕された、実話をもとにした物語だ。純粋に惹かれ合っていたにも拘らず、教唆罪に問われ有罪となったアルド・ブライバンティ(ルイジ・ロ・カーショ)の姿を通して、監督が訴えたかったものとは何か。今年78歳を迎えながら、どこか飄々とユーモラスな風体のアメリオ監督に話を伺った。



『蟻の王』あらすじ

1959年春、イタリア・エミリア州ピアチェンツァ。詩人で劇作家、また蟻の生態研究者でもあるアルド・ブライバンティ(ルイジ・ロ・カーショ)は、芸術サークルを主催し、そこには多くの若者が集っていた。ある日、兄に連れられ、エットレ(レオナルド・マルテーゼ)という医学を学ぶ若者がやってくる。アルドが探していたクロナガアリを持ってきたことで、二人は初めて言葉を交わす。芸術や哲学など、あらゆる話題を語り合い、互いに魅了され、仲を深める二人。エットレはアルドの元に通い詰めるようになるが、エットレの母親は二人の関係に憤り、あろうことか、教会でアルドの母親であるスザンナを罵るのだった。5年の月日が流れた1964年の春。ローマに出て充実した生活を送っていたアルドとエットレだったが、ある朝、エットレの母親と兄が二人の部屋に突然押しかけ、エットレを連れ去ってしまう。エットレは同性愛の“治療”のために矯正施設に入れられ、アルドは教唆罪に問われ、逮捕されてしまう…。


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なんと恥ずべき社会か



Q:1945年生まれのあなたは、アルド・ブライバンティの裁判が起きた60年代半ばは、まだ二十歳ぐらいだったと思いますが、当時、事件から受けたご自身の印象を覚えていますか。


アメリオ:覚えているのは、なんと恥ずべき社会かと思ったことです。裁判で起こっていることが信じられなかった。当時わたし自身も、彼の逮捕に反対するデモに参加しました。世界は変わる必要があるということを訴えたかったのです。わたしたちは昔の因習を捨て、新しい価値観を必要としていた。でも同時に、裁判所のなかで起こっていたことは、ストリートで起こっていることとは正反対でした。


とはいえ、ひどいのはイタリアばかりではなかった。イギリスは1967年に性犯罪法ができるまで同性愛は犯罪であり、彼らを虐待することも黙認されていました。(※ただし1967年法は、私的な同性愛行為が許されただけで、公然たるものは依然処罰の対象だった)



『蟻の王』©Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)


Q:当時すでに映画化を考えていらっしゃったのでしょうか。


アメリオ:というわけではありません。まだ映画監督になると決意していたわけではなかったので。ただ映画界で働きたいと思っていたので、アシスタントの仕事などをすでに始めていました。それでもいつか自分で映画を撮ることができるのだという確信はまだ持てなかった。やっと監督になれたのは、26歳のときです。



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