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『哀れなるものたち』撮影監督:ロビー・ライアン ヨルゴス・ランティモスの世界を作ったフィルム撮影【Director’s Interview Vol.382】
『オッペンハイマー』『マエストロ』『パスト・ライブス』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』そして『哀れなるものたち』。第96回アカデミー賞にノミネートされた作品の一部だが、ここに挙げた全ての作品がフィルムで撮影されたものだ。そして『パスト・ライブス』以外の作品は撮影賞にもノミネートされている。
デジタルカメラの性能は日々向上し、もはやデジタル撮影なのかフィルム撮影なのかを見分けることは難しい。前述した作品たちを見ても、その違いが分かるわけではない。しかし前述のどの作品からも、映画全体から漂う“何か”に気づいてしまう。その“何か”こそが、まさにフィルム独特の“空気感”であり“質感”なのではないだろうか。監督:ヨルゴス・ランティモス、撮影:ロビー・ライアンが手がけた『哀れなるものたち』も例外ではない。凄まじいまでの世界観にただただ圧倒され、フィルムを駆使した画作りと空気感には息を呑む。
二人は如何にしてこの世界を作り上げたのか? ヨルゴス・ランティモスとは一体どんな監督なのか? 撮影を手がけたロビー・ライアンに話を伺った。
『哀れなるものたち』あらすじ
風変わりな天才外科医ゴドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)の手によって死から蘇った若き女性ベラ(エマ・ストーン)が、世界を知るために大陸横断の冒険の旅へ出る。時代の偏見から解き放たれたベラは、平等と解放を知り、驚くべき成長を遂げていく―。
Index
モノクロとカラー、それぞれのフィルムを使用
Q:モノクロとカラーの色使いに息を呑み、モノクロでさえもその豊かさに心を奪われます。本作はフィルム撮影ですが、その色調整はフィルムタイミングで行ったのでしょうか?それともデジタルのカラーグレーディングを活用されたのでしょうか?
ライアン:そこに興味を持ってくださり嬉しいです。今回はカラーフィルムとモノクロフィルムの両方を使って撮影しました。カラー撮影では、昔よく使われていた「エクタクローム」というフィルムを全体の3割くらいで使用しています。すごく色彩が豊かなフィルムで、この作品の色彩設計を決めるのに非常に役立ちました。コントラストも色彩もとてもはっきりしているので、ある種ガイドになるんです。
最近はカラーで撮影したものをグレーディングでモノクロに変えることが多いのですが、今回は最初からモノクロフィルムを使用しました。モノクロ専用のフィルムを使うことにより、とても美しい画が撮れる。そこは大きな違いですね。
『哀れなるものたち』©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
もちろん作品としての一貫性を持たせるために、全体的なカラーグレーディングは行っています。エクタクロームがはっきりとしたカラーベースを持っているからこそ、グレーディングでやるべきことを決めてくれた部分がありました。また、フィルムはデーライトタイプを使ったので、室内撮影の際にはタングステンライトを使い、暖かめの灯りづくりをしました。それをベースに色々と調整していったのですが、フィルム自体が素晴らしい質感を持っているので、その特性からあまり乖離しないように気をつけました。
今回はCompany 3(CO3)というグレーディングを専門とするポスト・プロダクションと一緒に仕事をしたのですが、そこのグレッグ・フィッシャーというスタッフが非常に勤勉で、私たちが望むルックを理解してくれて、それを叶えるために辛抱強く尽力してくれました。グレッグはヨルゴスと一緒に仕事をした経験もあるようで、ヨルゴスが望む感覚的なものや色彩の感性を理解しているようでした。僕らは2〜3週間くらい一緒にグレーディングルームで作業をしました。かなり長いプロセスでしたね。でもグレーディングルームって面白い場所なんです。一度に12時間ぐらいその部屋に篭るわけですが、ずっと作業をして外に出ても、また戻りたくなる。それはあの部屋が、「自分が望む色を精査して見つけていく」という“ものづくり”を楽しめる場所だからなのでしょうね。
また今回はVFXのフッテージもかなりありました。ここまでVFXを駆使した作品は初めてだったので、そこも非常に興味深いプロセスでした。