1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『瞳をとじて』ビクトル・エリセ監督 映画は観客の意識に対して開かれたもの 【Director’s Interview Vol.384】
『瞳をとじて』ビクトル・エリセ監督 映画は観客の意識に対して開かれたもの 【Director’s Interview Vol.384】

© 2023 La Mirada del Adiós A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.

『瞳をとじて』ビクトル・エリセ監督 映画は観客の意識に対して開かれたもの 【Director’s Interview Vol.384】

PAGES


無意識の引用と言及



Q:主人公となった映画監督のミゲル(マノロ・ソロ)は未完の映画『別れのまなざし』の撮影を中断した1990年から、作家や翻訳業の仕事に移り、劇中設定の「現在」である2012年まで22年間映画を撮っていません。また若き日に、特に政治の季節と呼ばれる1960年代後半、フランコ独裁政権の弾圧と闘った世代であることも映画の中で示されます。このミゲルは、エリセ監督の自画像が投影された人物(あるいはそれに準じるもの)と捉えてよろしいのでしょうか?


エリセ:私の想像から生まれたアイデアですし、映画監督という登場人物について考える場合、自伝的な人物になる可能性については、ほとんど避けられないことです。しかし私が危惧するのは、それが結局、映画をご覧いただく方々にとって、この架空の人物像についての理解の幅を狭めてしまうのではないかということです。


確かに私はミゲルに、自分の個人的な要素を幾つか入れたことは否定しません。ただ一方で、『瞳をとじて』は私の31年ぶりの映画ということがよく強調されますが、その長い間、私が映画を撮っていないというのは事実ではないのです。短篇や中篇は撮っていますし、確かに数は多くないですが、美術館のためのビデオ・インスタレーション作品などもあります。つまりミゲルの歩んできた道は、決して全てが私の人生と重なるわけではない。少なくとも、彼は私よりずっと歌が上手ですね。



『瞳をとじて』© 2023 La Mirada del Adiós A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.


Q:(笑)。あくまでフィクションであり、全てを監督ご本人との同一視に回収するのは良くないということですね。監督がいまおっしゃった「歌」というのは、ミゲルが海辺の自宅で仲間たちを前にギターを弾いて歌う「ライフルと愛馬」(My Rifle, My Pony and Me)――ハワード・ホークス監督の西部劇『リオ・ブラボー』(59)のディーン・マーティンが歌う挿入歌のことです。またミゲルの親友である映画編集者マックス(マリオ・パルド)はフィルムコレクターでもあり、彼の自室には『夜の人々』(48/監督:ニコラス・レイ)や『チャップリンの殺人狂時代』(47/監督:チャールズ・チャップリン)などのポスターが貼ってあります。これらはあなたの創作に影響を与えた偉大な映画たちへのオマージュと捉えてよろしいですか?


エリセ:影響を受けた映画はたくさんあります。今回の引用や言及に関しては、計画的なものではなく無意識に行ったものです。当然、私にとって大切な映画作品や映画人ばかりが『瞳をとじて』の中に現われているように思います。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『瞳をとじて』ビクトル・エリセ監督 映画は観客の意識に対して開かれたもの 【Director’s Interview Vol.384】