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『瞳をとじて』ビクトル・エリセ監督 映画は観客の意識に対して開かれたもの 【Director’s Interview Vol.384】

© 2023 La Mirada del Adiós A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.

『瞳をとじて』ビクトル・エリセ監督 映画は観客の意識に対して開かれたもの 【Director’s Interview Vol.384】

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アナ・トレントである意味

※この章は物語の核心に触れております。予めご了承の上お読みください。



Q:『瞳をとじて』には『ミツバチのささやき』のセルフオマージュがありました。記憶をなくした父フリオと施設で再会した時、アナ・トレントさんは「ソイ・アナ(私はアナよ)」と、『ミツバチのささやき』と同じ台詞を2回呟きます。


エリセ:その通りです。『瞳をとじて』の脚本にあのシーンを入れたのは、50年前に『ミツバチのささやき』で同じ台詞を言ったアナ・トレントのシーンを想起させるためです。今回、このシーンを撮影した時、アナと私は大きな感動を覚えました。



『瞳をとじて』© 2023 La Mirada del Adiós A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.


Q:そのアナ・トレントも場に参加しているラストシーンが素晴らしかったです。記憶をなくした元俳優のフリオが、失踪前に出演した最後の映画『別れのまなざし』を(閉館した)映画館で観る。この時、喪失した「記憶」と、スクリーンに映し出される「映画」が奇妙な形で交わることになる。その重層的なイメージの交感があまりに美しくて、涙が出ました。これは『ミツバチのささやき』の序盤、『フランケンシュタイン』(31/監督:ジェイムズ・ホエール)の上映会を彷彿させるシーンでもあるかと思います。エリセ監督はどのような意図を、あるいは祈りをこのラストシーンに込めたのでしょうか?


エリセ:明白な意図はありませんでした。このシーンの意味は私自身の意図や解釈に閉鎖されたものではなく、観客の意識に対して開かれたものです。映画をご覧になった皆さんが自分の内側で、各々自分の知性や心の中で、ひとつの答えを見つけるべきだと思っています。




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監督/脚本:ビクトル・エリセ

1940年6月30日、バスク自治州ビスカヤ県カランサ生まれ。マドリード大学で法学・政治学・経済学を学んだ。1960年に国立映画研究所(国立映画学校の前身)に入学、映画の演出を学び、映画批評雑誌「ヌエストロ・シネ」等に映画批評を寄稿する。1961年の『テラスにて』(未)以後、数本の習作短編映画を監督。並行して、『次の秋』(アンチョン・エセイナ、67、未)の脚本執筆参加と助 監督の兼任や、『あいまいな八月の夢』(ミゲル・ピカソ、68、未)の脚本執筆に参加する。オムニバス映画『挑戦』(69、DVD 発売のみ)の第三話の監督を担当し、商業映画監督としてデビューする。その後長編第1作『ミツバチのささやき』(73)を発表、国内外で高い評価を受けた。しかし長編第2作「エル・スール」(83)を発するまで、約10年間映画作りから遠ざかっていた。同作は製作トラブルによって当初予定されていた後半部分の撮影が実現しなかったが、現行版は充分に完 成された傑作との評価を確立している。『エル・スール』に次いで、またしてもおよそ10年の空白期間を経た後に、画家アントニオ・ロぺス=ガルシアの製作作風景に迫った半記録映画『マルメロの陽光』(92)を発表。同作は第45回カンヌ国際映画祭審査員賞・国際映画批評家連盟賞を受賞した。長編作品は『マルメロの陽光』以来、本作『瞳をとじて』公開までに31年もの時を経て第4作目となる。『マルメロの陽光』以後、オムニバス映画『10ミニッツ・オールダー』(02)内の一篇『ライフライン』、『ラ・モルト・ルージュ』(06)、 オムニバス映画『3.11 A SENSE OF HOME FILMS』(12)中の『アナ三分間』、オムニバス映画『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』(12)の一篇『割れたガラス』を発表。いずれも短編映画である。2006年にはバルセロナ現代文化センターやパリのポンピドゥー・センターで、イラン人映画作家アッバス・キアロスタミとの共同インスタレーション(ヴィデオ往復書備)を発表した。エリセは溝口健二監督のスぺインにおいて初となる長文論考を執筆・出版するほどに溝口を敬愛しており2006年には溝口没後50年のシンポジウムに参加した。また2011年には東日本大震災を受け製作された『3.11 A SENSE OF HOME FILMS』にも参加し一篇を担当する。これまでに5度の来日実績があるほどに日本とは特に深い関係性を築いている。



取材・文:森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「シネマトゥデイ」「Numero.jp」「Safari Online」などで定期的に執筆中。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当。





『瞳をとじて』

2月9日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国順次ロードショー

配給:ギャガ

© 2023 La Mirada del Adiós A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.

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