キャストやスタッフからのアイデアを使い尽くす
Q:脚本はご自身で書かれたものに対して、プロデューサー、助監督、主演の若葉さんを交えて作り上げたそうですが、脚本作りはいかがでしたか。
荒木:広告では考えたアイデアに対して何かを言われる場合、ほぼ絶対アイデアにとって良くないこと言われるんです(笑)。だから『人数の町』で初めて脚本の打ち合わせをするってなったときにすごく恐怖がありました。いろいろ言われて「僕の考えた大事なお話がこんなふうになっちゃうの?」ってなるんじゃないかって(笑)。でも『人数の町』での作業を経て、少しでも面白いものになるようにと皆が意見を言ってくれていることが分かった。意見を言うだけじゃなくてアイデアを出してくれることが分かった。で、たとえそれを採用しなかったとしても誰も文句を言わない。監督が自由に取捨選択できるんです。それってつまり脳みそを何個も借りられるってことだから、使わない手はないですよね。自分一人の脳みそなんて性能はたかが知れてますから。だからどんどん言ってもらう。で、その際に人に言われたアイデアを自分が採用しないとき、自分の境界線っていうか輪郭みたいなものが、より明らかになっていくんです。
また、今回の話は“無理ゲー”すぎて解くのに結構時間が掛かり(笑)、前回よりもかなり稿を重ねました。撮影の3〜4ヶ月前に、長い打ち合わせを繰り返しやりました。プロデューサーと助監督がそこに居るので、実際にどう撮影するかも想定しながら話せるので、とても能率的でした。前回は開発と制作が段階的に進んでいく感じでしたが、今回は開発をしつつ制作準備も進めるような感じでした。物理的に撮れる方法も想定しながら脚本を詰めることによって、欠番や変更を最小限に留めることが出来たのです。
Q:工場や水耕栽培の施設など、シンプルな美術設計が説得力ある世界を作っていますが、どのようにオーダーされているのでしょうか。
荒木:最初はもっと鈍臭い工場を考えていて、ベルトコンベアが欲しかったのですが、ベルトコンベアのある工場が意外と無い。そんな中、美術の杉本さんが「別の撮影で水耕栽培を撮影したんだけど、あれカッコいいよ」と教えてくれたんです。ネットで見てすぐに飛びつきましたね。もしベルトコンベアにこだわって工場が見つからなかったら一体どうしていたのかと(笑)。そうやってスタッフ一人一人が知恵を絞っていろいろ出してくれるので、とても助かっています。
肌触りみたいなところでいうと、すごくピカピカしたものよりも少しアナログ感が残ったものが好きです。唯一、前回から引き続きの杉本さんがそこを読み取ってくれてどんどん提案してくれます。その点については、引き続き同じスタッフでやるのもいいですよね。
『ペナルティループ』©2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS
Q:ボウリング場のシーンが個人的にとても好きでしたが、そもそもなぜボウリング場になったのでしょうか。
荒木:あのシーンは岩森と溝口の関係性が大きく変わってくるところで、同じループの中に囚われている二人の人間として、関係性が生まれ出す。なぜかボウリング場にしてみました(笑)。ボウリングって面白いモチーフだなとずっと思っていて、そもそも同じ方向を向いてやるスポーツっていうのが変ですよね。なぜ向かい合わないんだろうなと(笑)。『人数の町』でもボウリング場のシーンがあるのですが、「ツナギとボウリング場がそんなに好きなの?」って言われると困ります。気づいたらそうなってました。偶然です(笑)。
筑波山の麓にあるボウリング場で撮影させていただいたのですが、プロボウラーだったご主人がやっているかなり年季の入ったところでした。大掛かりな美術が組めない中で、光と色を駆使しながら作り込んでいき、照明の水瀬さんが「今ハリウッドではコレですよ!」と、見たことないようなマシンを使って照明の色を何パターンも見せてくれました。実際のあの場所を見たら驚くと思います。撮影時間的にもギリギリでアクションの難易度も高く、スタッフたちがテキパキやってくれたおかげで何とか乗り切りました。本当によく撮ったなって感じです。
あのシーンでは、岩森がボウリング球に勝手に動かされる動きがあったのですが、若葉くんからは「これ絶対“がーまるちょば”みたいになるよ」と言われしまい、「“がーまるちょば”になるのは嫌だな…」と思っていたら、若葉くんが色んな動きを提案してくれて、どんどん可能性を広げてくれた。撮っていて興奮しましたね。そうやって色んな人のアイデアが集まって、何とか作り上げることが出来たシーンです。