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『悪は存在しない』濱口竜介監督 小規模な制作環境がもたらすもの【Director’s Interview Vol.401】

『悪は存在しない』濱口竜介監督 小規模な制作環境がもたらすもの【Director’s Interview Vol.401】

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スタッフの中に見つけた主人公



Q:リサーチを元に物語を作られたとのことですが、『悪は存在しない』のタイトルに示されるようなテーマは、以前から映画化したいものだったのでしょうか。


濱口:今思えば「こういう話を前にも考えたことがあったな」ということが、ほんの少しあるぐらいです。そっちは物語の舞台も全然違うので、ちょっとした“種”のようなものがあった感じです。


Q:『悪は存在しない』というタイトルはどのタイミングで付けられたのでしょうか。


濱口:リサーチのタイミングですね。リサーチをしていて何となく大枠みたいなものが見えたときに、このプロジェクトのタイトルとして付けました。その時はまだ物語は出来ていませんでしたが、その後完成した物語とも良い緊張関係を結んでいると思い、最終的にそのまま残しました。


Q:グランピングの話はリサーチで聞かれたのでしょうか。


濱口:劇中で描かれる説明会に近いようなことがあったと伺いました。杜撰な計画を持ってきて、住人から反対されたと聞いたときに、まぁいかにも都会の人間がやりそうなことではあるなと。これは他人事ではなく、意外と普遍的なことに触れているのではないか。それが核になっていった感じです。


Q:一方で都会側の方でも何かリサーチされたのでしょうか。


濱口:基本的には私の想像です。普段の仕事で芸能事務所の方とは会っていますが、劇中に出てくるような人はいません。むしろここはちゃんと言っておきたいです(笑)。ただ、試写後に芸能事務所のマネジャーの方から(劇中のキャラクターと同様に)「私も昔介護の仕事をしていたんです」と言われまして、意外と当たらずと雖も遠からずだったなと。



『悪は存在しない』©2023 NEOPA / Fictive


Q:巧を演じている大美賀さんはシナハンのドライバーだったそうですが、スタンドインで立ってもらったら巧本人に見えてきたそうですね。


濱口:その時はまだ物語はそんなにできていませんでしたが、「あれ、この人もしかしてすごくいいのかも……」という印象はありました。大美賀さんには『偶然と想像』で制作部をやってもらい、その後の小さな撮影なども手伝ってもらったことがありました。長い時間をかけて付き合ってくれる方なので、今回も撮影監督とのシナハンの段階からドライバーとして来てもらいました。カメラを通してスタンドインで入ってもらった彼を見たら、普段付き合っている人とはちょっと違うものに見えてきた。彼自身は監督でもあり、昨年末に『義父養父』(23)という映画が公開されたのですが、その映画がすごく良かった。そういったこともあり、普段はあまり見せないけど、彼にはある種の強い表現欲求や繊細な感性みたいなものがあるとわかった。そして、すごく“趣深い外見”だなと思ったんです。何を考えているのかよく分からないし、実際「何を考えているんだろうな」と思わせてしまうような顔をしている。「この人でいけるのではないか」と思い、オファーをしました。


Q:大美賀さんは作り手として表現者ではありますが、俳優志望ではないですよね。


濱口:そうですね。ただ、自分で映画を撮るようになってから、俳優をどう演出したらよいのかという悩みに直面したらしく、演じる側になってみるというのはすごく良いのではないかと本人は思ったようです。それで役を引き受けてくれたところもあります。


Q:巧の真っ黒なコートが印象的ですが、何か意図されたものはありますか。


濱口:これは大美賀さんの私物なんです。スタンドインをしているときからずっと着ていて、その得体の知れない感じに、このコートと帽子がすごく作用していた。何だかちょっと死神ぽいというか(笑)。すごく良いなと思いました。




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