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『悪は存在しない』濱口竜介監督 小規模な制作環境がもたらすもの【Director’s Interview Vol.401】

『悪は存在しない』濱口竜介監督 小規模な制作環境がもたらすもの【Director’s Interview Vol.401】

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小規模な制作環境がもたらすもの



Q:監督のお話を伺っていると“いろんな偶然が重なって出来た”ようにも聞こえますが、偶然出来たとはとても思えないほど、すごい映画になっていると思います。


濱口:もちろん全てが“偶然ポロッと出来ました”ということではありません。自分自身が持っている問題意識のようなものと響く要素がうまく集まって出来たとは思いますが、一方で観客の皆さんには純粋に楽しんで欲しいという思いもあります。石橋さんの音楽から始まって、思った以上に物語が展開していきますが、そういうある種の“うねり”を楽しんでくれると有難いですね。


Q:『偶然と想像』しかり、『ハッピーアワー』(15)しかり、小規模な制作環境でも制約を受けず自由にのびのびと作っている印象があります。自身の作家性を存分に発揮できる環境が続くと、大規模な現場には戻りづらかったりするものでしょうか。


濱口:そういうところが、あると言えばあるかもしれません。今回のプロデューサーは『ハッピーアワー』や『偶然と想像』と同じ高田聡さんで、いつもやりたいようにやらせていただいています。これだけ良い環境があると安住したくなるところはありますが、ただ、大きな規模の映画を撮りたくないと思ったことはありません。大きな規模でも、撮れるものなら撮りたいということはずっと思っていますし、良い企画で自分がやれそうなものがあれば是非やりたいです。でもこういう少人数の制作が、自分自身の精神的な健康を保ってくれている気もするので、これをベースにやっていければと思います。



『悪は存在しない』©2023 NEOPA / Fictive


Q:小規模な制作環境と言いつつも、今回は画の力も強く規模を感じさせない部分もありました。機材なども良いものを使われたのでしょうか。


濱口:そう言っていただけるとありがたいです。撮影監督の北川喜雄さんはキューブフィルムという会社に所属していて、かなりの機材はそこからお借りしています。良い機材を使わせていただきました。


Q:作品自体が規模の大小を感じさせないようなところもあり、この環境で作り続けることが監督にとってベストなのではないかと思いました。


濱口:そうですね。この環境に可能性を感じていますし、これからも続けていくのは間違いないのですが、ただまぁ、映画って運が良くて出来ている部分も結構あるんです。今回も、単純にたまたま天気が良かったとか、たまたま撮影できる良い物件が見つかったとか、たまたま良い感じの小道具が見つかったとか、そういった部分が結構ある。いつも運が良いというわけではないし、運に頼らない部分をカバーしていくことが、もしかしたら一人一人のスタッフの仕事ということになっていくのかもしれません。一人一人の仕事が多くなれば多くなるほど、画面というものが分厚くなって観客が何かを発見できるものになる。そういう点で、スタッフの多さなどの規模に応じて、作品が強度を持つ面は間違いなくある、と思います。もちろん、そこに自分が上手く適応できるかという問題もありますが、そういう映画作りも自分の将来から排除しているわけではないです。




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監督/脚本:濱口竜介

2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』が国内外の映画祭で高い評価を得る。その後も317分の長編映画『ハッピーアワー』(15)が多くの国際映画祭で主要賞を受賞、『偶然と想像』(21)でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グラランプリ)、『ドライブ・マイ・カー』(21)で第74回カンヌ国際映画祭脚本賞など4冠、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞。地域やジャンルをまたいだ精力的な活動を続けている。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成





『悪は存在しない』

4月26日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、K2ほか全国順次公開

配給:Incline

©2023 NEOPA / Fictive

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