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『不死身ラヴァーズ』松居大悟監督 初期衝動みたいなものを見つめ直したかった【Director’s Interview Vol.403】

『不死身ラヴァーズ』松居大悟監督 初期衝動みたいなものを見つめ直したかった【Director’s Interview Vol.403】

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初期衝動みたいなものを見つめ直したい



Q:「好きは無敵。諦めることなんてできなくて、この10年で積み上げてきたものをすべて捨てて挑みました」とコメントされていますが、演出的にも新たなことに挑戦するような感覚があったのでしょうか。


松居:『不死身ラヴァーズ』に流れるテーマやメッセージは、自分が10年前に素敵だなと思ったものですが、一方で自分はこの10年そこに向けて培ってくることが出来なかった。特に最近は、キャラクターの背景や画角の外の物語、何気ないドラマや心理描写など、いわゆるリアルな人間の生き方や息遣いみたいなものを考えてきました。『ちょっと思い出しただけ』(22)を作ったときに、どうやらこういう表現のほうが、自分の伝えたいことが届きやすそうだぞと。この延長線上でやっていき、リアル系のところを突き詰めていけば、もうちょっと遠くに行けて、もっと映画好きの人に届くのに、なぜこのタイミングで『不死身ラヴァーズ』のような作品をやるのか。若手が中堅になり、昔よりもやりたいことが出来るようになったのに、なぜ振り出しに戻るようなことをするのかと。


映画を作れる環境はとても有難いのですが、予算が増えたり、多くの人に届けることが出来たりすればするほど、最初の気持ちをどんどん忘れそうになっていく。傾向と対策を考え続けている自分にちょっとシラけてしまうというか…。日本映画でウケそうな感じで作って実際にウケて、それをより鋭敏にしていってキャストだけが豪華になっていく。何だかレールに乗っかっているようで、そこに怖さを感じたんです。そんなときに『不死身ラヴァーズ』という無骨でザラザラしているけれども、中にはキラキラしているものが詰まっているような作品をやることで、自分はまずそこを大事にしたいと思ったんです。初期衝動みたいなものを改めて見つめ直したいというのはありました。なんか怖かったんですよ。



『不死身ラヴァーズ』©2024不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社


Q:以前、とある監督の方が「自分に求められるものが決まってきて、縮小再生産に陥っている気がする」と言っていた言葉を思い出しました。


松居:そうですね。ただその戦い方って多分みんな違っていて、今泉力哉監督のように同じことをやりつつも、ちゃんとキャストと規模をデカくしていく戦い方もある。皆それぞれ戦いながら、映画に消費されないようにしていると思います。「これがヒットしたので、次も同じ系統のもので、こういう原作でこのキャストで」と言われると、やってみたいとも思うし、出来るとも思うんだけど…。ただそれって、なんて言うんですかね…。


Q:『ちょっと思い出しただけ』がすごく良かっただけに、そこに対する皆の期待は確実にありますよね。


松居:そういう「リアルな恋愛モノで、こういう原作でやりませんか?」というお話は多くて、自分の中で面白いと思うものはもちろんやるのですが、自分の中でグッとこないとワクワクした仕事が出来ないなと。“映画作りが仕事になっていくのは嫌だな”ということはすごく考えていますね。


Q:この映画には『君が君で君だ』(18)のような疾走感があったり、カラオケシーンでは『くれなずめ』(21)のような空気もあったりと、松居監督の匂いのようなものを要所要所に感じます。でも一方で、どこか俯瞰で見ている感じもありました。


松居:それこそ『君が君で君だ』ぐらいまでは、登場人物と一緒に物語を駆け抜けるような感じで撮っていましたが伝わらない実感もあって、その後、登場人物たちと自分の年齢が離れてきて、30代半ば〜後半になってくると、一緒に駆け抜けるよりも俯瞰して撮る方が面白くなってきた。たぶん俯瞰して見つめるようになっていったんです。でもそうなったときに『不死身ラヴァーズ』という「一緒に疾走しようぜ!」みたいなタイプを一体どう撮ればいいのか?「俺、もう俯瞰しかしてないよ」って状態でしたから。まずは一度俯瞰を捨てて、恥ずかしいけれど中学生と一緒に走って「好きです!」っていうところから始めました。一方で大学パートの方は、設定は突飛ですが、そっちの方は俯瞰して見つめることができたと思います。そうやって両方の感覚が混ざったので、僕っぽくもあって、僕っぽくもないところがあったのかもしれません。


Q:2012年に監督デビューされて今年で12年目ですが、映画だけでもこれで15本目、その間にも舞台にドラマ、執筆活動と、ものすごい数のものを生み出して来ていますね。


松居:1本世の中にでると、その裏では多分3〜4本の企画が墓場にいっているんです。15本撮ったというよりも50本出来なかったという方が自分にとっては大きいかもしれません。『不死身ラヴァーズ』も元々はその一つでしたし、実現出来なかったことへの後悔や悔いもある。でも大体そういうのは規模が大きいものが多くて、撮れた15本はマンパワーでどうにかグイッとやってきたものばかり。もうちょっと大人になって、ちゃんと人の話を聞いて、折り合いを付けるところはつけて、こだわりを捨てていたら、もっと大きな規模で、もっと多くの人に届けられるものが出来たのかもしれません。まぁでも嘘はつきたくないですしね。


Q:松居ファンは裏切ってはいませんよね。全国のシネコンでかかるような映画を撮ったときに、松居監督っぽさがどうなるのかは気になります。


松居:壁ドンとかしてたらどうなるんだろうって、すごく興味はあります(笑)。でもどこか自分にしか出来ない表現は大事にしているつもりです。




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監督/共同脚本:松居大悟

1985年11月2日生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。12年、『アフロ田中』で長編映画初監督。枠に捉われない作風は国内外から評価が高く、活動は多岐に渡る。「バイプレイヤーズ」(TX)シリーズを手掛けるほか、J-WAVE「RICOH JUMP OVER」ではナビゲーターとして活躍、20年には自身初の小説「またね家族」を上梓。映画『ちょっと思い出しただけ』(22)は、男女のほろ苦い恋愛模様が多くの観客の共感と反響を呼び、大ヒットを記録。ファンタジア国際映画祭2022で部門最高賞となる批評家協会賞、第34回東京国際映画際にて観客賞とスペシャルメンションを受賞した。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成





『不死身ラヴァーズ』

5月10日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー

配給:ポニーキャニオン

©2024不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社

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