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『くれなずめ』松居大悟監督が脱した“不安”。成長の先に、初期衝動への回帰があった【Director’s Interview Vol.119】

©2020「くれなずめ」製作委員会

『くれなずめ』松居大悟監督が脱した“不安”。成長の先に、初期衝動への回帰があった【Director’s Interview Vol.119】

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劇作家・演出家であり、映画監督・脚本家でもあり、小説家としての顔も持つ。早熟の天才であり、国内における「コメディ」の立場について苦心する表現者でもある。松居大悟監督、現在35歳。20代前半にして「劇団ゴジゲン」を立ち上げ、表現の道をひた走る彼が、「原点回帰」といえる作品を作り上げた。かつて自身が作・演出・出演を務めた舞台を映画化した『くれなずめ』だ。


高校時代の仲間6人が、友人の結婚式に参加するため5年ぶりに再会。あの頃と何ら変わらない、くだらなくて愛おしい時間を過ごす彼らだったが、そのうちの一人は亡くなっていた――。成田凌、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、高良健吾といった演技派が集結し、死生観の概念を飛び越えた喜劇を創出。真の意味で笑って泣ける本作は、「くれなずむ(日が暮れるか暮れないかの曖昧な状態)」を命令形にしたタイトル通り、我々の心に微笑みと寂しさを同時に呼び起こす。


松居監督のパーソナルな面が強く反映された本作は、元々制作予定だった作品が中止になってしまった際、和田大輔プロデューサーの提案で動き出したもの。いわばアクシデント的に生まれた作品ではあるが、この作品を境に「松居大悟」というクリエイターは新たなフェーズに向かうことになりそうだ。それほどに、奇跡的な空気が満ちている。


いままさに“狭間”に立つ松居監督に、創作論をたっぷりと聞いた。


Index


キャラクターが「日々どういう生活をしているか」を考える



Q:『くれなずめ』を観て、ゼロ年代の日本映画の“におい”を感じました。松居監督もこの時期に学生時代を過ごしたかと思いますが、映画作りにおける影響はありますか?


松居:あると思います。たとえば『リンダ リンダ リンダ』(05)や『きょうのできごと』(04)など、高校生・大学生の時期に観た映画には人格を作られましたし、「日本映画って面白いな」と純粋に思っていましたね。


あの頃の映画みたいな雰囲気を出したいなとは考えていなかったけど、結果的に出ているならうれしいです。撮影の高木風太さん(『セトウツミ』(16)、『ハード・コア』(18)ほか)は1981年生まれで、それこそ山下敦弘監督とも一緒にやっているから、色の具合やカメラワークの具合にそうしたテイストがにじんでいるのかもしれませんね。

 

©2020「くれなずめ」製作委員会


Q:今回はキャストもスタッフも80・90年代生まれが多く、ゼロ年代に青春時代を過ごした方々が作ったからこそ、というのも大きいのかなと思いました。


松居:ああ、確かに。大学時代に誰かの家に泊まってみんなでしゃべるシーンの温度感とか、共通言語が多かった気がします。


Q:これは本作に限らずですが、松居監督の作品は登場人物の生活における価値観、金銭感覚がしっかり感じられるように思います。「何を食べて、どんな服を着て、こういう生活をしている人」というのがリアルに立ち上がってくる。


松居:衣装合わせの場などで、役者本人と「こいつってこういうやつだよね」と話し合って、最終的に生活感が出るようにとは考えていますね。ただ、キャラクターが日々どういった生活をしているかを考えるうえで、「こうした金銭感覚だ」「こういう家庭環境で育った」ということを一から考えたわけではないんです。それこそ、役者スタッフで埋めていったところも多いはず。


キャラクターについても、一方的な内容にならないようには心掛けています。たとえば明石(若葉竜也)だったら、乱暴で仕切りたがりだけど弱さや不安が根底にはあったり、大成(藤原季節)はカラッとして冷めているように見えるけど、実は情に厚かったり……。表面的な人物設計にはしたくないし、そこに生活感が自然と生まれたらよいなとは思っていますね。


Q:ソース(浜野謙太)が通うスーパーや、吉尾(成田凌)と欽一(高良健吾)が訪れる立ち飲み居酒屋といった、“場”と“人物”が絶妙にマッチしていました。


松居:台本と役者とスタッフの足並みがそろっていたのが、一番大きいのかもしれませんね。


「居酒屋ってこんな感じだよね」「カバンはこれくらいの大きさだよね」といったことを、オープンに情報共有して、密にコミュニケーションをとりながら進めていけたから、作品の中の場所の設定や小道具に至るまで、芝居とかみ合っていたのかもしれません。リハーサルの期間を長めにとったので、スタッフ間もコミュニケーションがとれたんです。





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