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『くれなずめ』松居大悟監督が脱した“不安”。成長の先に、初期衝動への回帰があった【Director’s Interview Vol.119】

©2020「くれなずめ」製作委員会

『くれなずめ』松居大悟監督が脱した“不安”。成長の先に、初期衝動への回帰があった【Director’s Interview Vol.119】

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キャリアを重ねて、より「初期衝動」を意識するように



Q:逆に「長回し」は、演劇的なライブ感ともリンクしているように感じます。


松居:ライブ感プラス、役者以外にも奇跡が起きるんですよ。エキストラの動きや天気の入り具合、カメラワーク等々……。今回でいうと、演劇と映画の狭間のようなものになったらいいなと考えていました。演劇は観る人が観たい場所を決められますが、映画は「ここを観てほしい」を作り手が提示しますよね。そこを長回しにすると、映画というフォーマットでありながら、観る人が観たいところを追える。目線を自由に動かせるから、たとえば「誰を追いかけて観るか」を選べるんです。


Q:長回しにおいて「観客を没入させる」「役者のボルテージを上げる」といった意図は聞きますが、「演劇と映画の狭間を生む」は松居監督ならではだと思います。『くれなずめ』という物語自体の精神にもつながりますね。


松居:もちろん、いまおっしゃっていただいたような意図もあるんです。最初の結婚式場の下見から、カラオケの「もしかして俺って……」くらいまではなかなか観方がわからないでしょうから、ワンカット風にして集中を切らさないようにはしています。

 

©2020「くれなずめ」製作委員会


Q:ゴジゲンの結成から13年、自主制作も含めれば監督としては10年超。この期間を振り返って、できるようになったこととできなくなったこと、どのようなものがありますか?


松居:色々なことを知られたのは大きいですね。たとえば、感情的なシーンを作るときに、寄りにしなくても引きでも感情が伝わる、とか。演劇の感覚に近いですが、映画にも通ずると思いました。それぞれの表現方法の特性を、より学べた気はしています。


Q:それをお聞きしたのは、『くれなずめ』に創作の初期衝動をすごく感じたからです。松居監督は数多くの表現媒体をお持ちですが、創作欲に関してはどのような変化を辿ってきたのでしょうか。


松居:昔より今の方が、子どものように作っている感覚はありますね。初期衝動に対して敏感になり、かつ、準備したものを簡単に捨てられるようになりました。経験を積んできたぶん、「捨てても大丈夫。何とかなる」とチームを信じられるように変わりましたね。最初はガチガチに演出プランを固めて絵コンテを作って、それ通りにいくように皆に伝えていたんです。それが正しいと思っていたんですね。自分にお話が来た以上、自分の演出プランを徹底しなければいけない……そうした感情は、きっと「どうなるかわからない」という感情や、不安の表れだったのだと思います。


そんななかで、だんだんと「わからないけどやってみよう」と思えるようになったり、「いまの部分をどう直したらいいですか」と聞かれて「わからない」と言えるようになったり、やってみたいからやるというプリミティブな感覚が強くなっていきました。もしかしたら他の演出家さんとは真逆かもしれません。


Q:初期衝動に対して敏感でい続ける、というのは松居監督の作品全体に通じるトーンでもあるように思います。


松居:そればっかり言ってられないなと思い、商業的なお話をもらってやるべきことをやろうと挑戦してはみるんですが、そういう作品に限って延期になったり中止になるんです……(苦笑)。


様々な理由はあるのですが、自分がどうしてもやりたかったら何とかしてやる方法を模索していたと思うんですよ。でもそうはならず「仕方ないですね」と解散になってしまっているから……。自分に嘘をつききれないんでしょうね。





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