この6人がいれば、どうやっても成立すると思えた
Q:そう考えると、他の企画が中止になってしまったことから始まった『くれなずめ』の映画化は、運命的なものがありますね。非常にパーソナルな作品かと思いますし、「言葉よりも『信じる』という気持ちが大事」という本作のコンセプトにもつながる気がします。
松居:そうした曖昧なものに対して、役者6人が腹を括ってくれたところが大きいですよね。芝居のニュアンスを話し合ったことなんてなかったですし、本当にお互いを信頼しあえて、プラス僕がやりたいこと……「恥ずかしさ」をちゃんと持ってくれていたんです。
Q:恥ずかしさ、とは?
松居:熱い思いを爆発させたり、感情的になったりすることへの俯瞰ですね。役者チームが皆そういった感覚で飛び込んでくれたから、うまくいった気がしています。
Q:松居監督が以前おっしゃっていた「パワー系の演技」、つまり泣かせにかかるようなものは選ばない、といった感覚の共有ですね。今回のメインキャストの皆さんはそれぞれ演技のアプローチが違うかと思いますし、そのうえで目指すところの意思疎通ができていたのですね。
松居:しかも、話し合ってそっちに向かっていったのではないというところが幸運でした。
僕は最終的なところしか見ていないのですが、たとえば成田くんと高良くんは演技のアプローチが真逆な気がしていて。高良くんはまず色々試してみて、その中で見つけていくスタイル。成田くんは受け続けるアプローチですね。
©2020「くれなずめ」製作委員会
Q:たとえば高良さんが声の大きさを調整したエピソードなど、リハーサルの中で出力も調整していったのでしょうか。
松居:最初の最初だけですけどね。読みあわせたり、一回ちょっと動いたりすることはありましたが、雑談する時間のほうが長かったです。そのほうがこの作品にとっては大切で。この6人がこの6人でいられたら、どうやってもこの映画は成立すると思っていました。
Q:本作はメインキャスト以外にも豪華な俳優陣が登場しますが、6人の輪ができていたからスッと入ってこられた、といったような雰囲気だったのでしょうか。
松居:いや、逆にこの6人がつるんでいるから、皆さんどちらかといえば遠くから見ている感じでした。そういった排他的なところも、クラスのイケてない集団っぽさがありますよね(笑)。
Q:なるほど、キャラクターとしてもある種「彼らの関係を乱す」役割があったから……。
松居:でも、彼ら以外の役者さんのほうが、誠実で真面目でした(笑)。