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『くれなずめ』松居大悟監督が脱した“不安”。成長の先に、初期衝動への回帰があった【Director’s Interview Vol.119】

©2020「くれなずめ」製作委員会

『くれなずめ』松居大悟監督が脱した“不安”。成長の先に、初期衝動への回帰があった【Director’s Interview Vol.119】

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芝居じゃなくなる瞬間を生み出す「食べる」と「走る」



Q:松居監督ご自身の、生活感や金銭感覚に関しては、どういったルーツがあるのでしょう。例えば下積み時代だったり、すごく苦労した時代があったり……。


松居:中学一年生のときに両親が離婚するまでは、福岡の高級住宅街で、三階建ての一軒家に暮らす超お坊ちゃんだったんです。ただ、離婚して母親と小さなマンションで母子生活をし始めてからは、環境が一気に変わりましたね。2個上の兄貴が不良になったり、自分自身も殻に閉じこもって現実とどう折り合いをつけるか苦労したり……。ただ、今になってみるとあの時間は「ものを作る」ということにつながっている気がしますね。


Q:松居監督の作品には、「食べる」行為も印象的に登場しますよね。食事は、まさに「生活」と「お金」に直結していると思います。


松居:ヨックモックを食べたり、アイコスを吸ったり、焼肉のシーンもそうですね。おっしゃる通り、「食べる」シーンはすごく好きです。後は「走る」シーン。というのも、食べたり走ったりしていくと、どんどんお芝居じゃなくなる瞬間が立ち現れるからなんです。


食べ方や箸の持ち方って、どれだけ意識しても芝居に集中し始めたら“自分自身”が出てきてしまうんですよ。走っている間ずっと表情を作り続けることも難しいですし。そうした「芝居じゃなくなる瞬間」は意図的に作ってしまいますね。


 ©2020「くれなずめ」製作委員会


あと、食事でいうと“場”です。食べることで会話が生まれて、親睦が深まる。そういった場を観ることが好きではありますね。屋台だと、食べたいけど全然食事が出てこない、といったような状況を走らせながら会話を組み立てられるという面白さもあります。客同士でシリアスな話をしつつ、頭の中には「まだ来ないのか」というイライラもあって、店員に八つ当たりしてしまう、といったちぐはぐな感じが出せるので。


Q:食事シーンだと、演劇はマイムが多いため、映画ならではの演出として大切にされている部分はありますか?


松居:演劇と映画で、「食べる」はやはり違いますね。演劇では、お客さんが役者の体そのものを観て、想像する。映画だと、情報としてその場所があって、そこに食べ物があって、空間における説得力がまるで違ってくるので、見せ方はより気を遣いますね。演劇では、食べている“場”は重要ですが、「何を食べているのか」「どういう場所なのか」は情報としてそこまで必須ではないように思います。


Q:となると、同じ『くれなずめ』でも、演劇と映画ではそうした細部に違いが生まれるのですね。


松居:まさにそうですね。映画だとより、食べるシーンが増えるように思います。





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