2022年度に発表されたSight & Sound誌「史上最高の映画」に堂々の7位にランクインした『美しき仕事』。孤高の映画作家クレール・ドゥニが、ドニ・ラヴァンを主演に迎え、目が眩むほどに青いアフリカの海岸を背景に、外人部隊とそれを率いる指揮官の訓練の日々を描く。日本では劇場未公開だったため、長らく映画ファンが待ち望んでいた幻の名作が、遂に4Kリマスター版にて公開。本作を携えてフランス映画祭に来日したクレール・ドゥニ監督に、話を伺った。
『美しき仕事』あらすじ
仏・マルセイユの自宅で回想録を執筆しているガルー(ドニ・ラヴァン)。かつて外国人部隊所属の上級曹⻑だった彼は、アフリカのジブチに駐留していた。暑く乾いた土地で過ごすなか、いつしかガルーは上官であるフォレスティエに憧れともつかぬ思いを抱いていく。そこへ新兵のサンタンが部隊へやってくる。サンタンはその社交的な性格でたちまち人気者となり、ガルーは彼に対して嫉妬と羨望の入り混じった感情を募らせ、やがて彼を破滅させたいと願うように。ある時、部隊内のトラブルの原因を作ったサンタンに、遠方から一人で歩いて帰隊するように命じたガルーだったが、サンタンが途中で行方不明となる。ガルーはその責任を負わされ、本国へ送還されたうえで軍法会議にかけられてしまう...。
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風景と肉体を一つに捉える
Q:キスやセックスなどの直接的な描写がないにもかかわらず、外人部隊の日常から官能性を感じさせられるのが不思議でした。
ドゥニ:私にとっては難しいことではありません。人の顔や肉体を観察するときに、そこにどんな美しいものがあるのかを見つめる。それを映画でやっているだけです。今回はゴツゴツした岩や強い光の中に、肉体を映し出しました。一見、風景と肉体は相容れないもののようにみえますが、それを一つにして撮影することで、さらに官能性が生まれてきたのだと思います。
Q:そのアフリカの風景がとても美しく撮られていますが、子供時代のアフリカ滞在時の記憶や思いなども反映されているのでしょうか。
ドゥニ:ジブチという場所は硫黄と塩と火山という三つの要素がある独特な所で、スタンリー・キューブリックが『2001年宇宙の旅』(68)を撮影した際に、「この場所こそ地球の原点だ」と言ったそうです。私がアフリカに滞在していたのは幼少期でしたが、ジブチが持つ激しさや熱さ、厳しさは、小さいながらもすごく感じていました。
『美しき仕事 4Kレストア版』© LA SEPT ARTE – TANAIS COM – SM FILMS – 1998
Q:撮影のアニエス・ゴダールの捉えるアフリカはその熱気まで伝わってきます。当時はどのような話をして撮影に臨まれたのでしょうか。
ドゥニ:とにかくこれは予算が無い作品でした。ちょうどデジタル撮影が始まった頃だったので、デジタルで撮影しようという話になったのですが、ロケハンに行ったところ暑すぎてデジタルカメラでは撮れないことが分かった。それで結局フィルムで撮ることになりました。当初は予算的にARRIFLEX SR3という16mmフィルムカメラで撮る話もあったのですが、私は広い画角で人物も風景も撮りたかったので、結局35mmフィルムカメラで撮ることになりました。
元々はテレビ局からの企画だったので、その時点でもう予算が少なくて…。撮影期間もアフリカで4週間、マルセイユで1日という短いものでした。フィルムも本当に少ししか使えませんでしたね。当時は予算の問題が本当に大変でした(笑)。