世界が注目する日本
Q:既存のプレイヤー(大手映画会社や製作委員会のレギュラー会社)の既得権益が確立している現状を打破すべく、新たなファンド構造と戦略を打ち出していますが、そもそも投資家にとって、日本映画は投資商品として魅力あるものなのでしょうか。
紀伊:めちゃくちゃ魅力的だと思いますよ。円安も相まって世界では超日本ブーム。世界中どこに行っても、寿司屋や居酒屋、焼き鳥屋まである。寿司職人は、アメリカでは芸能人やバレエダンサーと同じような扱いらしく、それくらいアメリカにとって有益な人という認識だそうです。ビザもすぐ降りるらしいですよ。知らぬは日本人ばかりですね。
ちょうど5年くらい前だと思いますが、アメリカのアカデミー賞が、有色人種に対してアカデミー会員を一気に開放したんです。その翌年にポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』(19)が作品賞を獲ることになる。「そんなことが起きんねや!」って衝撃を受けましたね。僕らが若いときは、「アジア人の映画なんて、アメリカ人は観ないんだ」と言われていましたが、いやいや、今は観るんですよ。世の中にダイバーシティの概念が広がっていく中で、いろいろなことが変わってきている。
日本はアニメーションが市場を切り開いていることもあって、世界から注目されている部分がある。そして世界を見ると、アニメーションよりも実写の方がマーケットは全然デカい。「日本の実写映画も今後大きくなるよね」と、その期待感は年々大きくなっていると思います。日本のクリエイターには自信を持って作って欲しいですね。
Q:K2 Picturesが提唱する新たなファンド「K2P Film Fund Ⅰ」が稼働することにより、作られる映画は、これまでと比べてどのように変わっていくのでしょうか。
紀伊:そこはあまり変わらないかな。例えば世界に通用している日本映画って、是枝さんや三池さん、黒沢清さんに濱口竜介くんなど、みな“個人”ですよね。これまで個人が個人の能力だけで突破してきた。日本の映画産業が彼らを後押ししたのかというと、決してそうではない。全然していないんです。僕らはそれを、会社として、法人として、そして産業としてもっと後押しできるようにしてあげたい。そのために必要なことは、僕らプロデューサーが、もっとビジネスリスクを取ること。つまり僕らが今まで通りだと何も変わらないんです。僕らが変われば、もっとたくさんの日本のクリエイターが世界へ出ていけるようになる。
さらに、労働環境も整備してハラスメントを防止してとやっていくと、必然的に製作費が上がっていく。つまり原価が上がるということ。原価が上がると利益を圧迫するわけだから、そんなことを会社は認めてくれないですよね。でも僕らは、映画をヒットさせて稼げばいい。そうやって稼ぐために、どうやってビジネスを作っていくのか。そのリスクを僕らが取るようになることが、一番大きな変化だと思います。