プロデューサーと監督の距離感
Q:三池監督や岩井監督のコメントを拝見すると、紀伊さんに絶大なる信頼を置いているのがわかります。プロデューサーとして、監督とはどのような関係を築かれていますか。
紀伊:まず監督と仕事をやる時点で、その監督に対して最大限のリスペクトがあります。あとは、監督がやりたい企画でも、僕がやってほしい企画でも、どこを目指すのかは具体的に話すようにしていますね。そこのフォーカスを合わせることが大事。また、監督がやりたいことの調整をする必要がある場合は、どのタイミングで、どう言うかはかなり考えます。僕の一番の仕事はまさにそこ。単語の選び方やタイミングも含めて、お互いの距離感の中で言える言葉を選択します。例えば、監督に「こうしてくれ」と言うと、もし僕が反対の立場だったら「だったらお前がやれよ」って思っちゃう。だから「監督、ちょっとこっち行かへん?」と言うとかね。これはプロデューサーとして最も必要な能力だと思いますね。
映画会社に勤めているサラリーマン・プロデューサーって、常に一定の距離で仕事をしたがる人が多いと感じています。監督から「もっとこうしたいんだけど」と言われても、「会社に聞いてみます」って言えば楽じゃないですか。でもクリエイターはこんな人は信用できないですよね。「クリエイターに寄り添う」って、言葉にすると簡単ですが、僕は「塀の内側なのか外側なのか」だと思うんです。会社って塀に囲まれているから、プロデューサーが塀の内側にいる限りは、この人はプロデューサーではないんです。だって、塀の内側にいるんだから、寄り添ってないですよね。
僕は完全に“アウトオブバーンズ”だと決めていたから、会社の言うことは聞かへんかった。だから、うちの若い人たちには「少なくとも塀の上に立て」と言っています。こっちでもあっちでもないところに立って監督と向き合わなかったら、君のことを信用してくれへんよと。信用してくれへんってことは、何かをお願いしても方向修正すらしてくれへん。ただお金を出してくれる人になっちゃうよと。しっかり向き合うと昼も夜もなくなって大変になりますけどね。夜は飲んでるだけですけど(笑)。
Q:是枝監督や西川監督とのタッグは驚きがありましたが、以前から一緒に映画を作ろうという思いはあったのでしょうか。
紀伊:東映時代から僕の下でやっていた小出大樹というプロデューサーが、ずっと分福さんに出入りをしていまして、彼の思いが伝わったのだと思います。僕らは今までと違う構造で、自分たちでリスクを取って映画を作りますと説明したら、「面白い!やろう」と一緒に映画を作ることになりました。プロデューサーとして分福さんに向き合うのは小出ですから、僕は少し引いたところでどういうビジョンを作っていくかが仕事ですね。
Q:ベテラン監督だけではなく次世代の監督として、枝優花さんや広瀬奈々子さん、ゆりやんレトリィバァさんなど、新人や若手監督とのタッグも宣言されています。
紀伊:そこはやっぱり循環ですね。実績のある人とだけやっていても、その人も僕も歳を取ったら終わりが来る。それは全然エコシステムじゃないですよね。どういうふうに次に価値を渡して、K2 Picturesも、K2P Film Fund Ⅰも、若い監督たちも、どう循環できるか。まぁ、普通のことですね。