ヨーロッパ、アジア、そして北米へ
Q:これから作られる作品はどのように企画を進められるのでしょうか。プロデューサー主導で企画を進めて監督をアサインするのか、それとも監督が持ち込む企画をバックアップしていくのか。
紀伊:それは両方ですね。僕らが企画して監督をアサインするものもあるし、監督が持ってきた企画を面白がるプロデューサーがいれば、それを進めることもある。そこは全然ニュートラルです。
Q:今言った前者と後者、プロデュース側がやりたい監督をアサインする企画と、監督自身がやりたい企画では、進め方などは違ってくるのでしょうか。
紀伊:違いはありません。僕らはファンドで映画会社をやっている以上、どういうゴールなのかを明確にする必要がある。そのためには、自分たちの企画を監督に理解してもらったり、監督がやりたい企画を僕らがどう評価して調整するかが重要。そこで監督と賛同出来ればやるし、「作品は作りたいけど、お金儲けはどうでもいい」と考えている人とはやれません。人様のお金を預かって映画を作っていく訳ですから。
Q:ベテラン・新人を問わず、国内の監督たちからのリアクションは何かありましたか。
紀伊:ありがたいことに、色々とお手紙をいただいたりしました。でも、この人とやりたいなと思ったら口説きに行くし、持ち込まれて面白いと思ったら「やろう!」となる。そこは今までと同じですね。ただ、これからはファンドなので、意思決定が早くなります。製作委員会だとタイトルごとに都度お金を集める必要がありますが、僕らはファンドのお金で迅速に進めることが出来て、配給も全部ポートフォリオとなる。つまり権利者が一緒になるんです。例えば東映では、1年間に10本作ったとしても、出資者が全部違うわけです。ポートフォリオにすることによる合理性は生まれてきますし、そこは製作にも大きく影響してきますね。
Q:どのような監督や企画を求めていますか?
紀伊:そこは特にありません。基本的には世界に出て行くことを一つのテーマにしています。世界に出て行くと言うと、大袈裟に聞こえるかもしれませんが、もう普通のことなんです。日本は少子高齢化で市場が小さくなっていくのに、なぜ日本人しか分からない映画だけを作っているのか。20年も30年前から少子高齢化が進むと言われていたのに、何もやってこなかったこと自体がおかしい。世界への道筋は出来るだけ具体的に示したいですね。
アート寄りな映画はヨーロッパ経由で世界へ、ミドルサイズの映画は日本を中心にアジアで直接配給したいと思っています。韓国の興行収入は年間で1,800億くらい。日本の興行収入は2,500億だけど、人口は韓国の約3倍。だから映画の興行市場としてはあまり変わらないですよね。だったら、何で直接配給せんのやろって思っていました。今年の秋には韓国に現地法人を作ろうと思っています。そうすると僕らが作った映画は、僕らがブッキングした韓国の映画館で流せるようになる。それを台湾、香港、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポールと順番にやっていく。大手配給会社が作る映画は日本で300館規模だけど、僕らはアジアで3,000館規模の映画を作っていく。そうすれば、同じ製作費でもコストエフェクティブになってくる。後はいかにアメリカ。ヨーロッパ、アジア、アメリカと、その3ルートを通して、どの企画がどこにフィットするのかをしっかり吟味したいですね。
Q:ヨーロッパやアジアへの進出は想像しやすいですが、北米への進出はこれまでの実績があまり無い分、想像できません。そこの戦略はどのように考えられているのでしょうか。
紀伊:そこはあまり言えないな(笑)。ヨーロッパはやっぱり映画祭だと思います。映画祭を通して世界に出ていくルートは確実にある。ヨーロッパで評価される作品はあまりバジェットは関係ないですしね。アジアでは、日本でウケるものはそのままウケたりするので、そこでどうやってマーケットを作っていけるか。3ルートそれぞれでビジネスモデルを変える必要はありますね。