監督の撮りたい演技に応えたい
Q:大沢さんと綾瀬さんの化学反応が素晴らしく、最高のコンビになっていました。綾瀬さんとのお仕事はいかがでしたか。
大沢:最初は本当に恥ずかしくて喋れなくて。でも撮影が始まると綾瀬さんは現場でずっと笑顔で、一緒にアクションごっこをしたり、石積みしたり、お菓子あげたりしてたのが一番楽しかった。監督はどうだった?
森井:面白かったですね。何と言うか不思議な方なので。一菜もそうですが、撮ってるときは何を考えてるかあまり分からない。それを撮っているのが一番面白いですね。それは2人に共通していました。分かりやすい表情を意図的に作ってもらっても、それを撮るのは面白いとは思わない。「この人何を思っているんだろう」って想像させてくれる人の方が面白いですよね。
Q:以前「演出するときは演技をさせるのではなく、ただ話してくださいと言っている」とお聞きしました。今回はどのように演出されましたか
大沢:監督に台本を取られて「一菜のままで演じてくれ」って。「セリフを忘れろ」みたいな感じだった。
森井:そこは『こちらあみ子』のときと同じでしたね。基本は翌日撮影するセリフを前日に覚えてきてもらいます。クランクイン前にセリフを全部覚えたりすると、思いが入ってしまって抑揚がついちゃうんです。
『ルート29』©2024「ルート29」製作委員会
Q:シーンの意図を説明したことはありましたか。
森井:してたかな? 今回はちょっとしたか。
大沢:ちょっとだけ。
森井:後半に出てくるホテルのシーンでは、珍しく一菜に話したよね。多分初めてじゃないかな。あのシーンは今までのやり方だとちょっと出来ない感じがしたので、一緒に別の部屋に行ってお話ししました。
大沢:何回も撮り直したし。
Q:『こちらあみ子』で「気持ち悪いんじゃろ?」というセリフのシーンが素晴らしかったのですが、それも7〜8回撮ったと伺いました。
大沢:今回もあれと同じぐらい撮ってたよ。
森井:そうね。今回のホテルのシーンとあれは何か符合するね。
Q:テイクを重ねることにより変わっていくものはあるのでしょうか。
森井:具体的に「ここのセリフをこうしろ」などは一切言いません。例えばホテルのシーンだと、一菜が世界で今たった1人だと思うことをどう感じてもらえるかが大事だったので、それを何度も強調しました。ちょっとの間1人きりで別の部屋に行ってもらったりとか、そんなこともしましたね。
Q:テイクを重ねていくと、監督の言っていることや要望がだんだん分かってくるものですか。
大沢:分かってくるから、監督の撮りたい演技に応えなきゃなと。でも周りにみんながいっぱいいるから、1人の空間にいる想像がなかなか出来なくて。
森井:スタッフがたくさんいる空間で難しいよね。自分でも無茶なことを言ってるなと思ってました。でも一度1人にして戻ってきたときには何かが変わっていた。多分そのテイクを使っています。「すげえ!ちゃんとした役者みたいだ」と思いました。しっかり応えてくるんだなと。
Q:映画の最初と最後では、ハルの背が高くなっているような感じもあり明らかに成長しているように見えました。演技に関しても次のレベルを求めていたのですね。
森井:そうですね。前回は全くなかったのですが、今回は一菜に求めるものを課したような感じがありました。
大沢:スタートは『こちらあみ子』みたいな感じで撮影が始まったけれど、だんだんハードルが上がっていった。でも監督が演技について話してくれたから、やりやすくなったというか。それに対してなるべく出来たらいいなと思って対応しました。
森井:素晴らしい!やっぱり一菜さんも成長されているのでね。あんまり同じようにやるのも面白くないだろうなと。
Q:『こちらあみ子』に出演された尾野真千子さんからは、「一菜以外撮れないんじゃないか」とずっと言われていたそうですが、今回はそれがとても良い方に転びましたね。
森井:その言葉はたまに思い出しましたね。その通りになっちゃってるけどいいのかなって。でも撮りたいものを素直に撮るのが一番いい。今回も一菜でいこうと思っていました。