撮影は挿絵のイメージで
Q:ひとつひとつのショットが不思議な魅力に満ちていますが、アングル・カメラワーク・色味などはどのように決められたのでしょうか。カメラマンの飯岡幸子さんとはどんなことを話されましたか。
森井:これは感覚の共有になるのですが、児童文学や小説の挿絵のようなことをやろうと飯岡さんとは話していました。挿絵のタッチってちょっと不気味だったりもする。それを映画全体でやりたいなと。あまり感情を表に出さないような朴訥としてるキャラクターたちの、人間的な感情だけが残るものにしたかった。飯岡さんとはそんな挿絵の感じについて話していました。
Q:今聞いてとても納得しました。トンボがハルを探してやってくるところなどは、とても挿絵っぽい感じがあります。
森井:挿絵って、絵以外のところはページの空白になっている。その余白感みたいなものをやりたかったのだと思います。
Q:アングルや横移動のカメラワークなどはお任せだったのでしょうか。
森井:それは伝えました。基本的にカット割りなどは僕の方で考えています。頭の中に画が浮かんじゃっているので、それに合わせるようにロケハンをして撮影場所を見つけていきました。
『ルート29』©2024「ルート29」製作委員会
Q:『こちらあみ子』に続いて印象的なボートのシーンが出てきますが、やはり世界観は鈴木清順監督の影響が強いのでしょうか。森井監督がディレクションされた「SEIJUN RETURNS in 4K」の予告編を見てより強く感じました。
森井:あんまり「鈴木清順さんになってはいけん!」と思いながらやってましたので、どちらかというとやっぱり挿絵の感じですね。
Q:前作よりも確実に「世界」が構築され、アップデートされていた感じがありました。前作は“偶然映っていた”感も感じましたが、今回は計算され尽くされた感じがありました。
森井:旅の風景全てが現実じゃない可能性を持ちながら進む話だったので、そのまま撮って成立するような風景の切り撮り方では出来ない感じもありました。だからと言って計算し尽くしているわけでもない。現実じゃないように現実の風景を切り撮るということは、前よりも意識したかもしれません。