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『不思議の国のシドニ』イザベル・ユペール 伝統とモダンがミックスされている日本に惹かれる【Actor’s Interview Vol.47】
フランスの名優、イザベル・ユペールが日本で伊原剛志と共演する。それだけでも興味をそそられるが、ヒロインが日本を訪れたのを機に元夫の亡霊を見る、西洋版幽霊の話であることも独創的で惹かれる。
『静かなふたり』(17)で知られるエリーズ・ジラール監督の新作『不思議の国のシドニ』は、夫を事故で失った作家のシドニが、かつての小説の再出版の際に日本を訪れ、そこで夫の幽霊に出会い、結果的に過去から解放され新たな人生を生き始める再生の物語。幽霊の描き方も紋切り型とは異なり、ユーモアとしっとりとした感動のバランスが保たれた、大人の恋愛譚と言える。
圧巻はやはりイザベル・ユペールの存在であり、飄々としているようで無言の悲しみから再生の感情までを、表情ひとつで静かに表現する。彼女だからこそ成立したといっても過言ではない。またひとつ代表作を増やしたユペールに、彼女の視点による日本文化と撮影経験について語ってもらった。
『不思議の国のシドニ』あらすじ
フランス人作家シドニ(イザベル・ユペール)が、日本の出版社から招聘される。見知らぬ国、見知らぬ人への不安を覚えながらも、彼女は未知の国ニッポンにたどり着く。寡黙な編集者の溝口(伊原剛志)に案内され、日本の読者と対話しながら、桜の季節に京都、奈良、直島へと旅をするシドニ。そんな彼女の前に、亡くなった夫アントワーヌ(アウグスト・ディール)の幽霊が現れて……。
Index
監督の考える独特な日本像の魅力
Q:最近日本で撮影されるフランス映画や合作が増えていますが、そのなかでも本作はエリーズ・ジラール監督の日本に対する思いが詰まった、とてもユニークな作品です。俳優としてこの企画に惹かれた理由はどこにありましたか。
ユペール:フランス人は、日本に対して特別な愛情を抱いていると思います。たいていの人は日本に行くと、日本のことが好きになる。わたしもすでに何度も仕事で日本に行っていますし、日本で撮影をしたこともありました。ジョゼフ・ロージーの『鱒』(82)という作品です。でもエリーズ(・ジラール監督)の映画は独特のトーンがあり、脚本も気に入りました。思慮深く、エモーショナルで、それにユーモラスなところもあります。たとえばシドニのバッグをネタにしたやりとりなどは滑稽で、ちょっとバスター・キートン的なユーモアがある。それはシドニというキャラクターのメタファーでもあります。映画はシンプルな物語でありながら、複雑さを擁している、そこがとても気に入りました。
それにエリーズのことは、以前から知っていたのです。彼女の一作目の『ベルヴィル・トーキョー』(10)を観ていましたし、2作目の『静かなふたり』には、わたしの娘のロリータ・シャマーが出ていますから。そんなわけで彼女と一緒に仕事をするのは、ある意味自然な成り行きであると同時に、興奮させられるものでした。
でも実際に撮影を開始するまでは、コロナのせいでかなり時間が掛かりました。ようやく撮影ができたときには準備万端というか、早く撮りたくて仕方がないといった心境になっていました。
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Q:日本のことをよく知るあなたにとって、日本の魅力とはどんなところにありますか。
ユペール:紋切り型に聞こえるかもしれませんが、わたしが惹かれるところは伝統とモダンさのミックスです。その組み合わせは興味深い。『鱒』を撮ったときのことをよく覚えているのですが、80年代だったので、まだとても男性社会の印象がありました。夜にレストランに行っても男性客が多く、ヨーロッパなどとは異なった。でも『不思議の国のシドニ』は現代の話ですし、伝統とモダンさの両方を描いている。お寺を訪れたりもすれば、直島のようなコンテンポラリーな場所も出てくる。監督もその両方に魅せられているのだと思います。