ⓒ1993/2023讀賣テレビ放送株式会社
『お引越し 4Kリマスター版』撮影監督/4K監修:栗田豊通 公開から30年、今も続く創造性【CINEMORE ACADEMY Vol.35】
コンセプトは歌川広重
Q:実際の撮影についてもお聞かせください。旅行先のホテルから飛び出したレンコを父親のケンイチが追いかけ二人で話をするシーンは、その一連の動きを追うカメラワークやアングルに驚きました。
栗田:現場では、まず芝居を見て、それをどう撮るのが一番効果的かを考えていました。パースペクティブについても常に意識していて、今回のコンセプトのベースとして大きくあったのは、歌川広重の浮世絵でした。
また、カメラの動きに関しては “ダンスフロア”といって地面や床にベニアを敷き、その上にドリーを乗せズームレンズと移動の両方を使って撮影しました。カメラを操る僕と、クレーンを操る人、フォーカスとズームを送る人、全ての呼吸が合ってないと撮れないショットでしたね。
『お引越し 4Kリマスター版』ⓒ1993/2023讀賣テレビ放送株式会社
Q:レンコがお墓の中を歩くシーンでは、数多くの提灯の灯りに息を呑みます。
栗田:提灯は美術部が用意したものをスタッフ全員、みんなで点灯していきました。撮影用に全てゼロから用意したものだったので、準備から撮影まで大変でしたね。このシーンはマジックアワーを狙って撮ったこともあり、常に時間との戦いでした。そしてこのお墓の場所こそ、僕の中でまさに広重だったシーンです。広重は前景と中景、後景を効果的に作った人。ここのシーンではそれに倣って、前景と中景、そして後景をはっきりと作りたかった。レンコが歩いているお墓は死者の場であるわけで、その奥にある後景は今生きている人たちが住んでいる街並み。その対比がありました。前景と中景、そして後景を撮りたかったことは確かですが、その意味に関しては後付けだったかもしれません。実際に編集されたものを見て、前後の流れも踏まえて、その意味を感じてくるわけです。
それまでの物語の舞台は、後景にある向こう側、つまり皆が生活している場所で、映画の前半ではお墓のある山は後景にあったものでした。これは京都で撮影したことが大きいとおもいます。このシーンあたりから、レンコは前景のお墓が象徴しているような場所を彷徨していく。物語の前半でも木々のざわめきなどのインサートショットで、そのシグナルが出ているような気もします。それぞれのシーンが醸し出すそのような空気が、無意識のうちに観客に引っかかってくるような編集がなされていてるのですが相米さんがそのように使うとは予想していませんでした。いると嬉しいですね。直接的な説明はなくても、何かを感じて欲しいなと思います。ここは今回のグレーディングでも時間をかけた部分でした。
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Q:インサートで入っていた、ハイスピードで撮られた木々のざわめきや月などは、監督から具体的なリクエストがあったのでしょうか。
栗田:監督からの指示は特にありませんでした。脚本にも書いていないので、目についたときに僕の方で撮っておいたものです。木々のざわめきはハイスピードで撮っているわけではなく、実際にあのようなゆっくりした動きでした。そして、月だと思われたインサートカットは、“Day for Night”といって昼間に太陽を撮影してそれをブルーにしたものです。どのショットも効果的に使ってくれていましたね。それまでの相米さんはインサートショットをあまり使っていなかったので、意外な気もしました。