この作品は“時間”を描くもの
Q:今まで話されたような今回の撮影環境は、役者としてはどう感じましたか。
富田:まさに理想的な撮影現場でした。ほぼ順撮りということもありますし、「気持ちがちょっとしんどいです」と手を挙げたら「ストップしようか?」と言ってもらえるような、ゆとりのあるスケジュールを組んでもらいました。どこに飛び出していっても受け止めてくれる人が必ずいるという、安心感のある現場でもありました。役者さんやスタッフの方々も「本当にいい現場で楽しかった」と口々に仰っていて、「自身が関わっていることをこんなにも実感しながらもの作りを進められたのは初めてだった」という声を聞くたびに、一緒に嬉しくなっていました。
Q:安達監督の現場は普段のドラマ撮影でもこういった形で進められているのでしょうか。
安達:アクションものを撮ったりすることもあるので、題材によりますね。ただ、やっぱりお芝居をするその瞬間は大事にしたいということに変わりはありません。一日中ずっと集中することは難しいので、本番のときは集中してやれるリズムを作ることをすごく大事にしています。
『港に灯がともる』©Minato Studio 2025
Q:この映画を観ると、家族との意図しないすれ違いや寄り添うことの難しさを感じます。一方で、だからこそ大切なものは何かということを見つめる機会を与えてくれた気もしました。
安達:人と人って理解し合いたいけれど、どこかで絶対理解し合えないものでもある。それでもともに同じ時間を生きなければならないという現実がある中で、どう生きていくのか。その答えは人それぞれです。灯と家族はあくまでもその一例で、あの家族がハッピーエンドのような形を迎えるにはすごく時間が掛かることだと思うし、そこを急いで描くと綺麗事に見えてしまう。この作品は“時間”を描くものなのだと、作りながらそう感じていました。
富田:綺麗事のない時間の流れによって、灯を近く感じられるのではないでしょうか。それぞれの暮らしやすさや生きやすさがあるように、作品にもそれぞれの受け止め方があると思います。
けれど、今作が心の拠り所になるような方がこの世界にはきっといる。ということだけでも感じ取っていただけたら、少しは世界がやさしくなるのではないかなと思います。
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監督/脚本:安達もじり
NHK大阪放送局所属のドラマ番組ディレクター。映画『港に灯がともる』はNHKエンタープライズ在籍中に製作。主な演出作品は、連続テレビ小説『カーネーション』、『花子とアン』、『べっぴんさん』、『まんぷく』、『カムカムエヴリバディ』、大河ドラマ『花燃ゆ』、ドラマ『夫婦善哉』、『心の傷を癒すということ』、『探偵ロマンス』など。映画『港に灯がともる』の主人公の灯という名前は、『心の傷を癒すということ』のラストシーンで誕生する子供の名前。ふたつはまったく違う時間軸の別の作品として描いたが、神戸を舞台にした作品の象徴として、脚本家の桑原亮子に了承を取り使用した。
富田望生
福島県いわき市出身。映画「ソロモンの偽証」(15)の1万人が参加したオーディションでメインキャストに選ばれたことをきっかけに、俳優としての活動を開始。その後、話題作に次々と出演。主な出演作品は映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」(17)「SUNNY強い気持ち・強い愛」(18)「日日芸術」(24)ドラマでは「宇宙を駆けるよだか」「教場」「だが、情熱はある」連続テレビ小説「なつぞら」「ブギウギ」などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『港に灯がともる』
1月17日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペースほか全国順次公開中
配給: 太秦
©Minato Studio 2025