阪神・淡路大震災から30年。圧倒的な取材を基に、アフター震災世代をリアルに描くオリジナルストーリー。震災、在日、心の傷をテーマに持ちつつも、描かれるのは誰にも共通する普遍的な家族の物語。ドラマチックな展開を避けた構成ながら、人物に寄り添うカメラにいつしか心を掴まれてしまう。監督は、20年以上にわたり演出家として数々のドラマを手掛けてきた安達もじり。主演は本作が初の映画主演作となる富田望生。
丁寧な演出と卓越した静かな演技が心の中に残り続ける。それは紛れも無く傑作映画の証左だろう。2人は如何にして映画『港に灯がともる』を作り上げたのか。話を伺った。
『港に灯がともる』あらすじ
1995年の震災で多くの家屋が焼失し、一面焼け野原となった神戸・長田。かつてそこに暮らしていた在日コリアン家族の下に生まれた灯(富田望生)。在日の自覚は薄く、被災の記憶もない灯は、父(甲本雅裕)や母(麻生祐未)からこぼれる家族の歴史や震災当時の話が遠いものに感じられ、どこか孤独と苛立ちを募らせている。一方、父は家族との衝突が絶えず、家にはいつも冷たい空気が流れていた。ある日、親戚の集まりで起きた口論によって、気持ちが昂り「全部しんどい」と吐き出す灯。そして、姉・美悠(伊藤万理華)が持ち出した日本への帰化をめぐり、家族はさらに傾いていく――。なぜこの家族のもとに生まれてきたのか。家族とわたし、国籍とわたし。わたしはいったいどうしたいのだろう――。
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30年という時間を表現する
Q:震災や在日、心の傷など、色んな要素が入っていますが、脚本はどのように作られたのでしょうか。
安達:プロデューサーの安成洋さんから、「神戸を舞台に心のケアをテーマにした、阪神・淡路大震災30年のタイミングで公開する映画を作りたい」というオーダーを受けまして、そこからどういう話にするかを考えていきました。30年という時間の表現を大事にしたかったので、震災を経験した人、していない人を、テーマの一つにしようかなと。それで、震災を経験していない人を主人公に、その家族の物語を作ろうと決めました。
物語を作るにあたり、まずは一番被害の大きかった長田に行ってお話を伺いました。長田はいろんなルーツを持つ方が暮らしている街で、在日の方もたくさんいらっしゃいます。話を伺うと、一世、二世、三世で、ものの捉え方が全然違っていて、それによる苦しみがあるという。神戸で生きている人たちの30年を描くとなると、そういったルーツを持つ家族を中心に据えることで、いろんなことを表現出来そうだなと。そして、あくまでも主人公の灯の目線で描き、彼女の半径何メートルという世界をひたすら表現していくことで、いろんなことが感じられるものになるといいなと。だから在日ということに関しては、最初からテーマとして決まっていたわけではなかったんです。
『港に灯がともる』©Minato Studio 2025
Q:最初に脚本を読んだ印象はどのようなものでしたか。
富田:オファーをいただいたときはまだ脚本ができておらず、企画書にあらすじが書かれていました。そこに載っていた、震災、在日コリアン、双極性障害という文字がどうしても目に入ってくるので、まずはこういったものを描こうと決めたスタッフの皆さんの覚悟に、私自身が追いつかねばと思いました。それまでの作品は、基本的には来るもの拒まずスケジュールが空いていれば二つ返事でお受けしていましたが、今回は私の中に皆さんと同じ覚悟が芽生える時間が必要だと思い、お返事までに3週間ほど時間をいただきました。その間に脚本の初稿が上がってきて、それもじっくり読ませてもらい、私の覚悟がちゃんと芽生えてから受けさせていただきました。
灯を普通の女の子に感じ、普通の女の子である彼女が抱える揺らぎや、彼女がこれから出会っていく人たちに、私自身も出会いたいと思うことができた。それもお願いすることになった理由の一つです。