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撮影監督は『ブルータリスト』をどう観たのか⁉︎ 山田康介 × 彦坂みさき × 山本周平 撮影監督鼎談【CINEMORE ACADEMY Vol.37】

向かって左から撮影監督の山田康介氏、彦坂みさき氏、山本周平氏

撮影監督は『ブルータリスト』をどう観たのか⁉︎ 山田康介 × 彦坂みさき × 山本周平 撮影監督鼎談【CINEMORE ACADEMY Vol.37】

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フィルム撮影への思い



Q:デジタルでは出せない色味の話がありましたが、今はフィルムで撮影しても基本的にはスキャニングしてカラーグレーディング(色調整)しています。今回はタイミング*で色調整をやっていると思われますか。


*タイミング:フィルムのネガ原版からプリント(焼き付け)を行う際に、明るさや色味を調整する作業


彦坂:どうでしょう。エンドロールにカラリストの名前があったのでグレーディングはやってそうですね。


山田:グレーディングはしていると思いますが、やっぱり最初の発色はフィルムとデジタルで違いがあるんです。フィルムの方はレンズを通したそのままの光を捉えているから、そういう意味ではフィルムの方が自然な発色をうまく捉えられていると思います。


山本:現像も結構変えているでしょうね。暗いシーンが多かったですが、暗部があまり嫌じゃなかった。増感した部分もあるのではないかなと。発色や明るさは心地よい感じがしました。



『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures.


Q:デジタルカメラは進化する一方で、ハリウッドでフィルム撮影が衰退することはなく、2024年のアカデミー賞撮影賞はノミネート5作品中4作品がフィルム撮影のものでした。日本での35ミリフィルム撮影は厳しい状況ですが、皆さんにとってフィルム撮影にはどんな思いがありますか。


山田:フィルムで撮った方がいい思う作品はフィルム撮影を提案しますが、なかなか予算的な折り合いがつかないのが現状ですね。カメラマンになって以来、全編フィルム撮影した作品はデビュー作の『神様のカルテ』(11)だけです。別作品で一部回想シーンなどをフィルム撮影したことはありますが、それ以外は全てデジタル撮影ですね。


山本:カメラマンとしてフィルム撮影をやったことはないのですが、助手時代はCMの現場でフィルムを扱うことが多かったです。フィルムの装填をやり、距離を測りながらフォーカスを合わせていました。撮影後には現像したフィルムをチェックして色調整する“テレシネ”という作業があって、そこには監督やカメラマンをはじめとするスタッフが集まり皆で見るのですが、撮った画がピンボケしているのではないかと、ものすごい緊張感と恐ろしさがありました。今でもまだその記憶が残っています。撮影を始める“RUN”のスイッチを押すとガラガラと音がしてフィルムが回り出すのですが、いつもドキドキしていましたね。それは撮影する気持ちにも関わってくるのだろうなと。いつかはフィルムで映画を撮りたいですね。


彦坂:私もフィルムでは短編を1本やっただけなので、毎回「フィルムで撮りたいです」と伝えていますが、「予算が無い」と大体却下されますね。予算もそうですが、今は現像が関西になってしまったこともありスピード感みたいなものも気にされているようです。助手時代はフィルムで育ってきたしフィルムが好きなので、フィルムで撮りたい気持ちは常にあります。監督と共犯関係にならないとなかなか難しいかもしれませんが(笑)。


Q:デジタルカメラで撮る際は、トーンなどフィルムのルックに近づけようとされますか。


山田:デジタルカメラはフィルムに寄せようとしていた時期がありましたが、ラチチュード*に関して言うと、もうフィルムとほぼ変わらないところまで来ている。今はもう比べるものではなくなった感じです。筆を選ぶ感覚とでも言いますか、この作品にはフィルムが合っているのかデジタルが合っているのか、そこでトーンを決めています。


*ラチチュード:フィルムで再現できる露出(明るさから暗さ)の幅


山本:僕はやっぱりフィルムが好きなので、どんな作品でもフィルムに近づけたいと思ってしまいます(笑)。LUT*の選択から始まって、グレーディングでフィルムトーンに近づけていくことを毎回やっています。コマ数も30コマか24コマを選べるときは、ほぼ100%の確率で24コマを選んでいますね。


*LUT(ルックアップテーブル):映像の色味を数式で変換するカラープリセット


彦坂:私も自分が落ち着く色や方向性はやっぱりフィルムトーンですね。テスト撮影してテストグレーディングすると、結果フィルムに近い方向に行くことが多いです。





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