
向かって左から撮影監督の山田康介氏、彦坂みさき氏、山本周平氏
撮影監督は『ブルータリスト』をどう観たのか⁉︎ 山田康介 × 彦坂みさき × 山本周平 撮影監督鼎談【CINEMORE ACADEMY Vol.37】
脚本理解の重要性
Q:皆さんの普段の映画撮影ではカット割りやカメラワーク、色の方向性など、撮影コンセプトはどのように決めて、どのタイミングで監督やプロデューサーに提案されているのでしょうか。
山田:前準備が必要で撮影に時間をかける必要があるカットについては事前に話しますが、特に事前準備を必要としないカットについては、監督が現場に入って演出と段取りを一通り決めた後に話すことが多いです。
彦坂:私はまず脚本を読んでイメージします。ビジョンがある監督の場合はそれを聞いた上で、ロケハンで実際の撮影場所を見て、やりたいことを決めていきます。監督によってはかっちりカット割りをしてくる人もいれば、俳優の芝居を見て撮り方を決める人もいる。そこは作品によりますね。
山本:映像のトーンに関しては脚本を読んでから決めることが多いです。テーマの似た映画をリファレンスにして監督と相談することもあります。あとはやっぱりロケ地ですね。撮る場所が決まってから方向性が見えてくることもあります。
彦坂:皆さん、トーンについて提案されたりしますか。
山田:よくやっていますね。いくつか写真集を持って行って「こういう感じでどうですか?」と話しています。
山本:僕は映画を見てもらうことが多いですね。
山田:そうやって共通認識を持つことは大事ですよね。最近は“ムードボード*”みたいなものを出して欲しいと言われることもあるので、トーンやカラーパレットなどをまとめたものを作ったりもします。
*ムードボード:ビジュアルに関して色や雰囲気・イメージなどを共有するためのプレゼンボード
彦坂:海外のカメラマンのマスタークラスでも、彼らは「ムードボードを作る」と言っていましたね。
『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures.
Q:ラースローと妻のエルジェーベトが並んで寝ているところを長回しで撮っているカットがあるのですが、最初は斜め横にあったカメラがものすごくゆっくり動いていき、2人を俯瞰のような位置で捉えます。通常そういったカメラワークは監督が決めるものなのでしょうか。それともカメラマンが決めているのでしょうか。
山田:基本的には監督だと思います。やっぱり映像も演出なので、ショットの全て司るのは監督であるべき。ただ日本の場合はそうはいかないところがあって、こちらから事前に動きを提案することが多いです。ロケハンに行って話すこともあるし、芝居の段取りや動きによって決まっていくこともある。そこはケースバイケースですね。
Q:会話シーンなどでは、話し始める人にフォーカスを送る場面などもありますが、会話の流れ・雰囲気でフォーカスを送っているのか、それとも演出的にフォーカスを送ることを事前に決めているのでしょうか。
山田:日本ではフォーカスプラーはカメラマンになるまでの工程の一つに入っているので、皆カメラマンになるまでにフォーカスを送ってきた経験がある。だから僕らは、フォーカスを送る感覚が既に備わっているんです。そんなこともあって、もう感覚で送ってしまっていると思います。もちろん監督からのリクエストにも応えますが。
彦坂:動きや会話の内容を見ながらここではこっちに合わせるべきだろうと、常に考えながらやっていますね。
山田:フォーカスプラーの醍醐味ってまさにそこで、そうやって考えることが大事なんです。ボケていた方が良いのかどうかを考えること自体が面白いし、撮影演出としてもすごく重要ですね。
Q:そこまで考えるためには、今撮っているシーンだけではなく作品全体の意図も分かっておく必要がありますね。
山田:そうです。だから脚本を読むということがめちゃくちゃ重要なんです。