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撮影監督は『ブルータリスト』をどう観たのか⁉︎ 山田康介 × 彦坂みさき × 山本周平 撮影監督鼎談【CINEMORE ACADEMY Vol.37】

向かって左から撮影監督の山田康介氏、彦坂みさき氏、山本周平氏

撮影監督は『ブルータリスト』をどう観たのか⁉︎ 山田康介 × 彦坂みさき × 山本周平 撮影監督鼎談【CINEMORE ACADEMY Vol.37】

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第97回アカデミー賞で作品賞、監督賞、撮影賞をはじめ10部門にノミネートされた映画『ブルータリスト』。ホロコーストを生き延び、アメリカへ渡ったある建築家の光と影の30年を描く壮大な物語は、その圧倒的なまでの映画体験が話題となっている。圧巻のビジュアルを作り上げた秘密のひとつが、ビスタビジョン*による撮影だ。


そんなこだわりを持って撮影された本作を、日本で活躍中の撮影監督である、山田康介氏(『シン・ゴジラ』16)、彦坂みさき氏(『Ribbon』22)、山本周平氏(『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』23)の3名にIMAXで鑑賞していただき、『ブルータリスト』の画作りについて語ってもらった。撮影監督たちは『ブルータリスト』をどう観たのか。


*ビスタビジョン:1950年代に開発された、35ミリフィルムを横にして撮影する方式(カメラ)。これによって通常の縦使いで撮影された35ミリフィルムよりも大幅な高解像度(高画質)を得ることが可能となる。 



『ブルータリスト』あらすじ

才能にあふれるハンガリー系ユダヤ人建築家のラスーロー・トート(エイドリアン・ブロディ)は、第二次世界大戦下のホロコーストから生き延びたものの、妻エルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)、姪ゾフィア(ラフィー・キャシディ)と強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためにアメリカ・ペンシルベニアへと移住したラスロは、そこで裕福で著名な実業家ハリソン(ガイ・ピアース)と出会う。建築家ラスーロー・トートのハンガリーでの輝かしい実績を知ったハリソンは、ラスーローの才能を認め、彼の家族の早期アメリカ移住と引き換えに、あらゆる設備を備えた礼拝堂の設計と建築をラスーローへ依頼した。しかし、母国とは文化もルールも異なるアメリカでの設計作業には多くの障害が立ちはだかる。ラスーローが希望を抱いたアメリカンドリームとはうらはらに、彼を待ち受けたのは大きな困難と代償だったのだ――。


Index


主人公が架空の人物に見えない!



Q:今まさにIMAXで鑑賞した直後ですが、感想はいかがですか。


山田:面白かったですね。主人公は架空の人物ですが、まるで実在の人の伝記を見ている感覚がありました。今のイスラエルが抱える問題に繋がっていくような部分もあり、その始まりを垣間見た気がします。


彦坂:3時間以上あると聞いて結構ビビっていたのですが(笑)、あっという間でした。最初に「ビスタビジョン」のロゴが出た時点で興奮しましたね。同じビスタビジョンで撮られたヒッチコックの『めまい』(58)を思い出しました。


冒頭、どこにいるのか分からない真っ暗なところから始まり、そのまま外に出てバッと空が広がったときの開放感や密度がすごかった。それだけでもう「これはすごい映画なのでは?」と思ってしまいました。やっぱりファーストカットって大事ですね。また、全体的に顔の“寄り”が多く、エイドリアン・ブロディの顔がものすごい密度で撮られていて、それだけで映画が成立しているかのようでした。私もラースローは実在の人にしか見えなかったです。


山田:実際過去にこういうことがあったのではないかと思うくらい、エイドリアン・ブロディの表情に何か含んでいる感じがあった。すごかったですね。


山本:事前に監督のインタビュー動画を見たりして予習をして臨んだのですが、もうそれを忘れちゃうくらい3時間半があっという間でした。



『ブルータリスト』© DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures.


Q:本作はビスタビジョンをはじめ様々なフォーマットのカメラで撮影されています。ビスタビジョンの高画質の印象はいかがでしたか。


山本:採石場のシーンなどはビスタビジョンが使われていたと思うのですが、本当にその場にいるような臨場感があり、石に囲まれた冷たい感じや空気感を感じました。


彦坂:風景もそうですが、人を撮るのにここまで肉薄できるんだと強く感じました。デジタルで撮った映像をフィルムで撮ったように加工は出来ますが、今回はそれよりも有機的というか、温かみや丸みみたいものを感じました。前半の家具屋のシーンは赤っぽくてウォームトーンでしたよね? デジタルで赤を表現するのって結構難しくてちょっと電気的になるんです。


山田:フィルムっぽい懐かしい感じの赤みがあったよね。


彦坂:なんかいい感じの温かみがありましたね。


山田:大体の作品ではパラ*は全部消して綺麗にするのですが、今回はあえて消さずにそのまま使っていたようでした。それも狙いかもしれませんね。


*パラ:フィルムに付着したゴミや傷





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