キャストに求めた要素は「ポンコツ」!?
Q:この人たちなら「いける」と思ったポイントはどこだったんですか?
上田:自分の過去作もそうなんですが、器用な人が活躍するとか、美男美女が活躍する話ではなく、人間として不器用な人が、力を合わせて一つの困難を乗り越えるみたいな話が自分は好きで。今回、不器用な人たちがいっぱい来てくれたので(笑)。
Q:そうなんですか(笑)
上田:こんなにポンコツがいっぱいいてくれるっていうことは、いけるんじゃないかって。
Q:監督がお好きなポンコツな人間ってどんな人ですか?
上田: 濱津さん(主演の監督役)も、ほんとにああいう人なんですよ。腰が低くて謙虚で、舞台あいさつでも、ちょっとあんまり気の利いたことが言えないだとか(笑)。
Q:(笑)
上田:人間として器用にその場をこなせなかったりとか、その場の体裁とか、世渡りがうまくない人のほうが好きなんでしょうね。
Q:不器用な人をキャスティングすると映画製作が難しくなるのでは、と思ってしまうのですが・・・?
上田:器用な人をキャスティングしたら、この映画はできなかったと思うんです。物語で描いている37分ワンカットの映像を撮り切るために、虚実ない交ぜになる状態を作りたかったのかもしれないですね。器用な人は余裕ができちゃうじゃないですか。余裕があると、やっぱり現実と虚構を分けて演じれちゃう。
スタッフもキャストも全員が余裕のない中で、今自分は登場人物として笑っているのか、自分として笑っているのか。登場人物として走っているのか、自分として走っているのかが曖昧になってくる感覚を作りたかったんでしょうね。
あと、器用で技術があると、何回でも同じ言い回しやトーンでセリフを言えたりするんですけど、毎テイク結構違ったりするんですよ、濱津さんとかも。
Q:「さっきの演技をもう一回やって」っていうのが、できないんですね。
上田:そうですね。できる人もいますけど、できない人が多い気がしますね。だから、最初の37分も、計算しているトラブルとガチのトラブルが混在しています。緻密に脚本も書いて、リハーサルも重ねているんですけど、現場では「予期せぬことが起きてほしい」と思いながら撮っているんです。でも、その予期せぬことを起こそうとしたら、その作為は映ってしまうから、俺らが手が届くかどうか、ぎりぎりのところで火花を散らせば、予期せぬことは自然と起きるだろうという計算のもとで、撮っています。
Q:計算しながら、計算じゃないものが生まれるのを待つという感じなんですね。
上田:そうです。例えば赤ちゃんってずっと見ていられるなっていうのは、やっぱり次の瞬間どう動くか分かんないっていう、常にサスペンスをはらんでいるからだと思うんです。だから常にサスペンスをはらんでいる人を好んでいるのかもしれないですね。「こういうふうに2、3歩いて、ここで振り返って、セリフを言ってください」って言った時に、器用な人だったら予想通りのものができると思うんですけど、予想どおりいかない人の、「いかない部分」も取り込みたいという。
Q:その意図しないサスペンスフルな動きになってしまう人を評して、「ポンコツ」という表現になるんですね。
上田:そうですね。キャパがオーバーしたときに出てくる火事場の馬鹿力だったり、その一回きりのものだったりというのを、映画の中に閉じ込めたいから、というか。