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『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』撮影監督:フェドン・パパマイケル デジタルとアナログの融合からフィルムルックを生み出す【Director’s Interview Vol.476】
デジタルとアナログの融合
Q:ジェームズ・マンゴールド監督とは音楽ドラマからアクションアドベンチャー、カーレースなど、多岐にわたるジャンルを作ってきました。撮影前のコンセプト作りから実際の現場まで、いつもどのようなコミュニケーションをとっているのでしょうか。
パパマイケル:監督は脚本家でもあるのですが、常に新しいアイデアが生まれるので彼の脚本は完成することがありません。現場の俳優の動きなどでどんどん変わっていきます。一応画コンテは作りますが、その通りに撮影することはほとんどありません。とても有機的な作業なんです。ティモシーも同じでリハーサル日に現場に来た彼は、部屋の椅子に座ったりコーヒーマシーンを触ったり、ベッドの上に座ってみたりと色々と試します。決まった通りに動くのではなく彼も自由にやりたいのです。そしてリハーサルが一通り終わり俳優が帰ると、そこから監督と一緒に撮影プランを決めていきます。そのおかげで無駄なものを撮る必要がなくなります。そして撮影当日はリハーサルをせずに、いきなりテイク1から撮り始めます。テイク1が一番いいシーンが撮れることが多いですし、良いハプニングに巡り合うこともある。そういうスタイルで撮影しています。
一方で、撮影の半年前には脚本と撮影プランを全部決めて、そのまま撮るという監督もいます。例えばゴア・ヴァービンスキーやクリストファー・ノーラン、デヴィッド・フィンチャーらがそうですね。しかし、アレクサンダー・ペインやジェームズ・マンゴールドは非常に流動的で、俳優が作り上げる雰囲気を見てから決めていくというタイプ。セットの小道具の配置なども撮影直前に変更したりしますね。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
Q:撮影機材は最新のSONY Venice2を使用された一方で、アナモフィックレンズなどビンテージレンズを使用されたとのことですが、ビンテージのレンズと最新のデジタル機器との融合は映画作りにどのような影響を与えましたか。
パパマイケル:Venice2は非常に高感度で低照度でも使えるため、出来るだけ使用したいと思っていました。レンズのことは Panavisionのレンズ専門家であるダン・イセザキさんに相談しました。『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)でも60年代を描きましたが、今回はそれとは異なり、ストーリー的にもっと親密でキャラクター重視にしたかった。加えて暗い中でも撮影したいという条件もあったので、なかなかレンズが決まりませんでした。私としては『 ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』やヴィム・ヴェンダースの『ミリオンダラー・ホテル』(00)で使ったCシリーズのレンズを使おうと思い、ダン・イセザキさんに相談したところ、彼はCシリーズのレンズをベースにBシリーズ、最新のTシリーズのレンズを使ってハイブリッドのレンズを作ってくれました。これにより、俳優との距離が60センチ以内くらいのクローズアップが撮れて、しかもあまり明かりが無いところでも撮ることが可能になった。非常に柔らかい画も撮れるし、温かいフレアを出すこともできた。そのレンズはこの作品のために作られたものなんです。まさにクラシックな技術とモダンな技術の融合ですね。
また今回は、デジタルでカラーグレーディングしたものを一旦ネガフィルムにして、そのネガをスキャンして再度デジタルに戻しDCPにするという処理をしています。これは一番新しい技術で、これが可能になったことにより、仕上がりが本当にフィルムみたいになりました。もし本当のフィルムで撮影していたら、現場でもっと照明や機材が必要でした。今回はほとんどがロケでの撮影だったので、それでは上手くいかなかったと思います。デジタルの新しい技術のおかげで現場もうまく回ってフィルムのルックも得ることが出来た。すごく満足しています。
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撮影監督:フェドン・パパマイケル
主な作品に、『想い出の微笑(ほほえみ)』(監督:ダイアン・キートン)、『ミリオンダラー・ホテル』(監督:ヴィム・ヴェンダース)、『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(監督:ジェームズ・マンゴールド)、『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(監督:ジョージ・クルーニー)などがあり、最近の長編作品には、作品賞、撮影賞を含むアカデミー賞®6部門にノミネートされた『シカゴ7裁判』、マンゴールド監督の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』などがある。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
2月28日(金)全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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