海外では異なる、作品への意外な反応
Q:映画が明確な3幕構成になっていて、その3幕とも全てリズムや役割、色合いが違います。すごく映画的なうまい構造を発明されたと思いますが、いかがでしょうか。
上田:1幕目はワンカットで途切れなく撮っているんですけど、あまり動かないワンカットじゃなくて、もうがんがん動き回る。ただ1幕目は、映画に許されている時間の省略とか、カットをバンバン変えるダイナミズムみたいなものを使えない状態なんですよ。で、3幕目は、あの裏舞台で、時間の省略だったりとか緩急だったりとか、編集のマジックをフルに使っているので、カタルシスが生まれているのかなとは思いますけどね。だから、日本人は特になんですけど、最初の37分は、どっちかっていうと微妙だなって思って見る人が多い。体感だとお客さんの8割ぐらいは微妙だと思って見てますね。
Q:そうですか。僕が行った劇場では前半でもお客さんは結構笑ってましたよ。
上田:それリピーターもいるんじゃないですか(笑)。
Q:37分ワンカットパートでカメラのレンズに血のりが付いて、「あ、付いた」と思って、どうするんだろうと思ったら、カメラマンが拭いたじゃないですか。あれで爆笑してしまいました。「どういう映画なんだ?」って。
上田:イタリアとか韓国は、ワンカットパートから超大盛り上がりしちゃうんですよ。もう血のり拭いた時もすごい大爆笑で、喝采が出て、首とか転がるたびにすごい爆笑するみたいな。それはもう、B級映画とかゾンビ映画とか好きな人が集まって、そういうチープさ込みで楽しんでくれてるっていう。で、日本の人は、割とちょっと今話題になってて、面白いって聞いて来たけど、最初は「あれ?これ何?」っていう状態。
Q:特にゾンビ映画とか見慣れていない人だと、「何を見せられてるんだ?」みたいな感じになりますよね。
上田:あとひとつすごく悩んだのが、普通こういう映画の場合、舞台裏を描くときに、生中継している番組を見ているお茶の間とかも描くんですよ。
Q:ワンカットのゾンビドラマ番組を見ている視聴者ということですね。
上田:一応、テレビスタジオで見ているプロデューサーは描いていますけど、日本国民がどう受け取ったのかっていうのは描いてないんですよ。
Q:確かに。生放送されているわけですから、それを見ている視聴者がいるはずですよね。
上田:はい。例えば、僕が好きな『 ラヂオの時間』は、渡辺謙さんのトラック運転手が放送を聞いて感動するというシーンを入れているんです。そういった視聴者のシーンを最初のシナリオでは書いていたんですけど、後で消したんですよ。それは最初の37分を見ている映画館の観客、客席にいる人たち自体がお茶の間だから。やっぱり第3幕で、茶の間を俺が描いたら、作品が閉じられちゃう、つまり奥行きのようなものがなくなってしまうと思ったんですよ。この映画をどう受け止めるのかは人それぞれなのに、作中でみんなが面白がったって描いちゃったら、もし実際に映画を見た人の中に「そうでもなかったけどな」って思う人がいたとしても、そういう人を排除してしまうことになる。
Q:なるほど。
上田:あと、この作品は世の中にあるクソみたいなZ級映画に対するメッセージという側面もあるのかなって(笑)。
Q:どういうことですか?